関西支部長 挨拶

緊急事態宣言の終結後に、PCR陽性者が増え、私も毎日、対応に追われています。また、長雨のため九州をはじめ各地で災害が起こり、直接、助けに行くこともできずモヤモヤした日々を過ごしていますが、みなさん、お変わりはありませんか?
そんな中、2名の医師がALSの患者さんを薬物で殺害したという驚くべき事件が起こりました。
この事件に関する日本尊厳死協会の見解です。
ALS患者に対する嘱託殺人事件報道に関する日本尊厳死協会の見解
https://songenshi-kyokai.or.jp/archives/2450
また、以下に日本尊厳死協会副理事長としての私の見解を記しておきます。

ALSの安楽死事件に関するコメント

日本尊厳死協会副理事長 長尾和宏

私たち公益財団法人・日本尊厳死協会(以下、協会)は、延命治療の拒否を文書で示した「リビングウイル」の普及啓発を行うことを目的とした、10万人余の会員を有する市民団体です。協会として今回の事件に関するコメントを述べさせて頂きます。

はじめに、ALSという神経難病を患いながらも最期まで懸命に生き抜かれた女性の勇気を称え、ご冥福をお祈り申し上げます。

そもそもリビングウイルに基づいて延命治療を差し控えて充分な緩和ケアを受けた結果の自然な最期は「尊厳死」と呼ばれます。一方、医師が医療的処置で人為的に命を縮める行為の結果の死は「安楽死」と呼ばれます。在宅死の大半は尊厳死であり日本においていまだ法的担保はないものの、尊厳死は社会的に容認されつつあります。一方、安楽死は殺人罪に問われる犯罪です。しかも今回の事件は嘱託殺人であり、東海大学病院事件における最高裁判決の四条件を満たしません。また医師の倫理規定違反も明白であり到底容認できません。

まず協会として申し上げたいことは、尊厳死と安楽死は別物であることです。しかし多くのメデイアや有識者が両者を混同して報じられています。そのために議論が大混乱しています。今後のたいせつな議論の前に二つの言葉をしっかり区別して使って頂くことをお願い申し上げます。

 種々の調査によると現在、7~8割の日本人が安楽死の法的整備を望んでいるという現実があります。協会は尊厳死に賛同していますが、安楽死には反対の立場です。意外に思われるかもしれませんが、その真意は「まずは尊厳死ができる国にしよう」という想いです。というのも日本は先進国で唯一、「リビングウイルの法的担保」が無い国で、終末期議論の最後進国です。また充分な緩和ケアが提供できれば安楽死は要らないのではないか、という趣旨です。しかし現実には緩和ケアの手が及ばない身体だけではなく精神や魂の痛みに苦しむ人が多くおられることも事実です。そのため協会の会員の中にも安楽死の議論を望む声が多くあがっています。

 リビングウイルとは生前の遺言状です。終末期医療における自己決定権に関する国会議員の議論が行きづまったため、厚労省は「人生会議(ACP)」で決めようということに方針転換しました。そこで協会は、「リビングウイルを人生会議の入り口にしましょう」という形で発信してきました。「人生会議の主人公は本人である」、と。しかし現実にはリビングウイルを表明している日本人はまだわずかです。高度の認知症などですでに表明できない人もいます。今回、女性はリビングウイルを表明していました。しかしそれは尊厳死ではなく安楽死に関するものでした。彼女の1年前からのツイッターを読むとそこに至った心情や経緯は充分に理解できます。胸が痛みます。

リビングウイルは終末期医療に関する自己決定です。これは憲法で保障された幸福追求権に基づきます。しかしそもそも「死の権利はあるのか?」という視点で見れば、安楽死も同じことが言えます。協会は世界約30ケ国からなる「死の権利・世界連合」にも参画し理事を輩出しています。世界における「死の権利」とは安楽死議論一色ですが、世界もおおいに悩んでいます。一方、日本国内における「死の権利」とは今のところまだ尊厳死議論の段階に留まっています。しかし女性の死を契機に多くの日本人が死をタブー視せずに、リビングウイル、尊厳死、そして「死の権利」の議論を深め、多くの国民が納得する終末期医療に変容することを期待しています。

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