ACPは「温故知新」「禅」にも通じる

講演する大河内章三さん

 2020年10月20日に収録した、約1時間のWEB講演「今あなたに伝えたい 日本一わかりやすいアドバンス・ケア・プランニング」を再構築、要約しました。講師の大河内章三さんは、介護関連の仕事をしながら、行政や医師会と一緒に地域共生社会を目指した「まちづくり」に携わっています。講演全体は当支部HPから視聴できます。

以下は、その要旨。

 Advance Care Planning(ACP)は人生の最終段階の医療・ケアについて、本人の意思決定の実現を支援するプロセス。海外において、過程を大切にするACPの考え方が生まれたのは、事前指示書であるAdvance Directive(AD)を法制化して対応したものの、必ずしも患者や家族の満足が得られていないことが明らかになってきたため。
 日本では、2018年3月の「人生の最終段階における医療ケアの決定プロセスに関するガイドライン」改訂でACPの概念が導入され、厚生労働省は愛称を「人生会議」と決めた。本人の意向に沿った医療・ケアを実現し、尊厳を持って人生をまっとうできるよう支援することが目標。意思表示が難しい状態でも患者の意向を尊重した医療を行うことも目指す。人生の最後に「何を食べ

たいか」「どこで過ごしたいか」「何をしたいか」は、どう生きるかの問題。死ぬための準備をするというより、生きている間、希望をつなぎ、実現させる話し合いをするのが人生会議だ。今までの行為を見直し再評価するだけでもケアの質が高まる。
 ただ、最終段階においても状況の変化によって常に意思は揺れ動く。本人の想いをつなげ、寄り添うために繰り返し話し合うことが重要。
① 気がかりや意向 ②価値観や目標 ③病状や予後への理解 ④治療や医療に関する意向とその提供体制――が把握されていないといけない。
 本人に代わって治療や介護に関して判断・決定してもらう人の存在も重要。代理決定者を選べている人は多くないが、自分の想いを誰かに知ってもらうことは重要。救急車で運ばれる段になって、家族が初めてADを見る、聞くでは、延命拒否の意思があってもとりあえず病院で治療となってしまうことにもなる。一人で決めないで、想いをつなげておくことが大切だ。何を話したいかを整理しておきたい。
 近い将来の死が避けられない状況で70%の人(家族を含む)が意思決定できないというデータがある。「放っておいてもらって構わない」という人もいるかもしれない。でも、人は死ぬまで生きている。生きている間は痛みや苦しさがあるのに、どうしたいか伝えられない。そう聞くと不安になってくるのではないか?死を考えておくことで、人生の最終段階に対しての希望が持てることになる。
 ボートを漕ぐ時、人は背中の方に進んでいく。人生においても人は同じように先がわからないまま未来へ向かって進んでいく。目に映るのは過去の風景ばかり。明日の風景は誰も知らないのだ。温故知新「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」という言葉のように、様々な思い出を基に新しいものを知ることはACPに通じる。漕ぎ手に対面し同じボートに座る人の存在も大切。漕ぎ手が見ることのできない行く先の景色が見ることができる。
 日本文化の一つ「禅」は、人生は思い通りにはならない、移り変わりがある、すべては繋がりの中で変化するという仏教の教えに学ぶものだ。「禅」が目指す仏教の悟りは、ACPと重なると思えてくる。ACPは海外から導入されてはいるが、日本に根付いたものとも言えよう。

(支部長 野嶋庸平)