東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウイル)のチカラ⑳」

「医師がコミュニケーション技術を学ぶことの大切さ」

日本尊厳死協会東北支部理事(福島県) 
佐藤 直(あたい)

皆さんは医師の“コミュニケーション技術”というと、どんなことを想像しますか?

臨床医にとって、日々患者さんや医療スタッフと話すこと、話を聞くことは当たり前のこと。特別な技術を要しないように思われます。外来診察では、まず問診して症状を聞き、どんな身体所見か、検査データはどうか?という一連の流れに沿って迅速に正しい診断をすることが求められます。

最近では医学部の臨床実習の前後に「OSCE(オスキー)」という医療面接の実技試験が取り入れられております。このような学生時代から患者さんとの「正しい」話し方・接し方を学ぶ機会があるためか、我々(昭和世代)の若い頃に比べれば患者さんに分かりやすい言葉を使って、流暢に説明する若手医師が多いと感じます。もちろん、これは最も基本的なコミュニケーションであり、「分かりやすく伝える」ことに長けた医師が増えるのは歓迎すべきことです。

一方、例えば“がんの治療”などでは手術で治癒することも多い反面、抗がん治療を続けても病気が進行し、終末期で治療を中止せざるを得ない場面もあります。こうした「悪い知らせ」を患者さんに伝えることも医師の大切な役目ですが、このような場面での医療面接の教育機会は限られており、苦手とする医師が多いのも事実です。

「悪い知らせ」を伝えるときに必要とされるコミュニケーション技術の一つに「SHARE(シェア)」があります。それぞれ英語の頭文字でS:支持的な環境設定、H:悪い知らせの伝え方、A:付加的な情報提供、RE:安心感と情緒的サポート、を意味する略語で色々な例が示されています。その中には、言葉をかけるだけでなく、「沈黙」で患者さんの言葉を引き出す例も示されています。

このような技術を使うことにより、患者さんの抑うつ状態が軽減し、医師への信頼感が増すことも確かめられております。この「SHARE」を学ぶ研修会(コミュニケーション技術研修会)は定期的に開催されています。

患者さんと医療者とのコミュニケーションの深まりは、リビング・ウイルやACP(アドバンス・ケア・プランニング)につながる大切なものと考えられ、一人でも多くの医師がその技術を学ぶことを望みます。

(総合南東北病院外科・南東北地域医療推進センター長代行)

「悪い知らせ」の伝え方へのコミュニケーション技術研修会(背中を向けているのが佐藤 直東北支部理事)
福島県郡山市の布引高原に広がるコスモスと案山子