東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウィル)のチカラ」 ㉕

「お花畑の向こう側」を連載して思う事

日本尊厳死協会東北支部理事(青森県)                             坂本 祥一

 弘前市で開業して28年になります。
 開業以来、平日の午後は往診(訪問診療)に出かけます。
 これまで在宅で2千人以上の方を看取ってきました。沢山の方を看取っていると時に不思議な体験をする事があります。その不思議な体験をエッセイにして、弘前市の地元の月刊誌『弘前』に連載させて頂き、今月で19回目を迎えました(残念な事に46年間続いた月刊『弘前』は今月号で休刊になるそうです)。

 「お花畑の向こう側」というタイトルは、85歳Aさんの体験から頂きました。肺気腫があり、誤嚥性肺炎を繰り返すAさんは絶食中でしたが、ご飯を食べたくて仕方がありません。家人の留守中に炊飯器からご飯を丸呑みし、窒息してしまいました。家人がすぐに見つけ、私と救急車が呼ばれ、蘇生をしたところ、ご飯を吐いて一命を取り留めました。

 そのAさん曰く、「見たこともない綺麗な花畑を見てきた。そのお花畑の向こう側から大勢の声で『早く来-イ。早く来-イ』と聞こえ、声の方に行こうとすると、亡くなった両親の声が微かに『まだ来るな。帰れ―』と、聞こえた。その両親の声に従い、お花畑を戻ると光に包まれ、目を開けたら先生の顔が見えてビックリした」と、話してくれました。きっと「お花畑」を超えるとあの世なのでしょう。

 エッセイでは「お迎え現象(死の直前に、以前亡くなった人や大切な人が目の前に現れる現象)」や「仲直り現象(臨終に近づいた人が一時的に回復し、元気になる現象)」などお看取りの時に起こる不思議な現象や、亡くなる直前の方やご家族との心に残る会話を紹介しています。

 多くの人を看取らせて頂き、「お花畑の向こう側」へ送り出した様々な体験をエッセイにする事で、今生きている人・家族に、いつか訪れる『死』に対し考える機会になればと思っています。また、少しでも『尊厳死』を考えるきっかけになれば幸いです。

(医師 (医)希祥会理事長・坂本アレルギー呼吸科医院院長)

雪道の往診
岩木山麓にある嶽地区への往診。
今年は4m以上の積雪があり、3回に一度は吹雪で引き返すこともあった

月刊「弘前」
46年間続いた月刊『弘前』は、2025年5月号で休刊