東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウィル)のチカラ」(28)2026年5月

カタコンベにて


透析をやめたあとからの緩和ケア
病棟入院は何をもたらすのか

―末期腎不全が緩和ケア病棟の対象となると知り妄想した私見―

伊藤道哉(東北支部支部長)

はじめに

 初めにお断りをさせていただくが、本エッセイは、単なる私見、杞憂を述べたものにすぎない。
 2026年6月の診療報酬改定により、緩和ケア病棟で受け入れることができる患者の範囲が広がる見込みである。これまで主に、がんやAIDSの患者を対象としてきた緩和ケア病棟に、末期腎不全や末期呼吸不全の患者も含まれることになる[1]。
 この方向性は、理念としては大きな前進であるかもしれない。腎不全や呼吸不全の患者にも、痛み、息苦しさ、不安、せん妄、など、多くの苦痛がある。がんであるかどうかにかかわらず、人生の最終段階において苦痛を和らげる緩和ケアを受けることは、すべての人に開かれているべきである。
 ただし、慎重に考えなければならない問題もある。とくに末期腎不全では、透析を中止したあと、亡くなるまでの時間が非常に短いことが少なくない。報告によれば、透析中止後の生存期間は数日から一週間前後とされる[2]。場合によっては、二、三日で亡くなることもある。
 そのため、緩和ケア病棟が「透析をやめたあと、死亡直前に入る場所」と受け取られてしまう危険があるのではないだろうか。これは、緩和ケアの本来の姿ではない。

緩和ケアは「死なせる医療」ではない

 緩和ケアは、死を早めるための医療ではない。病気による症状が重くなっても、その人が最後までその人らしく過ごせるように支え続ける医療である。
 とりわけ「早期からの緩和ケア」が重視されている。これは、治療をすべてやめたあとに緩和ケアを始めるという意味ではなく、治療を続けながら、ありとあらゆる苦痛を和らげ、生き方を本人・家族・医療者が一緒に相談してゆくという仕組みである。治療と緩和ケアを並行して行うことは、「パラレルケア」とも呼ばれる。
 したがって、末期腎不全の緩和ケアも、本来は透析を中止したあとの数日間だけのケアではない。透析を続けている時期から、患者本人、家族、腎臓内科医、透析スタッフ、在宅医、訪問看護師、緩和ケア医などが、早い段階から一緒に連携していく必要がある。

海外の経験が示していること

 米国では、透析中止後にホスピスを利用する患者が少なくない。ホスピスは、日本の緩和ケア病棟や在宅緩和ケアに近い仕組みである。ただし、米国の研究をみると、利用のされ方には課題がある。透析を中止してホスピスに入った患者の平均生存期間は7.4日であった[3]。別の大規模研究でも、腎不全で亡くなった患者のうち、ホスピスを15日以上利用できた人は限られていた[4]。
 背景には、米国では制度上、透析を続けながら、ホスピスを利用しにくいという問題がある[5]。その結果、患者は「透析を続けるか、ホスピスを利用するか」という厳しい2択を迫られることがある。ワシントン大学の解説も、この構造を「透析を続けるか、ホスピスに入るかという過酷な選択」と説明している[6]。
 一方、退役軍人を対象にした研究では、透析を続けながらホスピスを利用できた患者では、ホスピス利用期間の中央値が43日であった。透析を継続できなかった患者では4日であった[7]。透析をやめなければ緩和ケアを受けられない制度では、緩和ケアは死亡直前の短期利用になりやすいことを示唆する。
 英国やオーストラリアでは、腎不全の緩和ケアは、透析中止後だけのケアではなく、透析を続けている時期から始めるものと考えられている[8][9]。

「透析をやめたら緩和ケア」では遅すぎる

 透析は、患者の生命を支える大切な治療である。しかし、治療を重ね、心不全、認知症、がん、フレイルなどを併せ持つようになると、透析の通院そのものが大きな負担になることがある。大切なのは、透析を「続けるか、やめるか」という二者択一にしないことである。回数や時間を調整する、症状を和らげる治療を強める、在宅医療や訪問看護を組み合わせる、家族の負担を軽くする支援を考えるなど、いくつもの選択肢がありうる。
 ところが、緩和ケア病棟への紹介が透析中止後になってしまうと、できることは限られる。本人の思いを丁寧に聞く時間も、在宅で最期を過ごす可能性を検討する時間も、ほとんど残されていない。緩和ケア病棟が、患者の人生を支える場ではなく、死亡直前だけを過ごす場になってしまうことは、患者にとっても、家族にとっても、緩和ケア病棟のスタッフにとっても望ましいことではないのではあるまいか。

緩和ケア病棟の現場に起こりるかもしれない苦悩

 末期腎不全の患者を緩和ケア病棟で受け入れるには、がんの緩和ケアとは異なるケアの提供と連携が必要である。尿毒症、体液貯留、かゆみ、息苦しさ、せん妄など、腎不全に特有の諸症状がある。
 緩和ケア病棟のスタッフが末期腎不全の症状やケアに十分慣れていない場合、現場が戸惑う可能性がある。腎臓内科や透析スタッフとの連携なしに、緩和ケア病棟だけで引き受けることは危ういのではあるまいか。透析中止をめぐって、家族は強い迷いや罪責感を抱くことがある。「本当にこれでよかったのか」「自分たちが死なせたのではないか」と感じる家族もいる。緩和ケア病棟で過ごす時間が二、三日しかなければ、家族の苦悩を十分に緩和することは難しい。

リビングウイルの視点から

 日本尊厳死協会が大切にしてきたリビングウイルの考え方は、単に「延命治療を拒否する」ということではない。大切なのは、自分の人生の最終段階を、できる限り自分の意思に沿って迎えることである。
 そのためには、選択肢が必要である。情報が必要である。本人の言葉を受け止め、一緒に考えてくれる人びとが必要である。透析を続けるか、中止するかという判断も、本人が何を大切にしているのかを丁寧に聴くことから始め、時間をかけて共有するプロセスがなければならない。

日本で必要な備え

 2026年6月の診療報酬改定は、末期腎不全について再考する機会でもあろう。
 第一に、多職種連携である。末期腎不全の緩和ケアを、緩和ケア病棟だけに任せてはならない。腎臓内科、透析室、在宅医療、訪問看護、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、緩和ケアチームが、早い段階から連携する必要がある。とくに、在宅で透析患者の看取りを経験してきた在宅医療との連携は重要である。
 第二に、早期からの関わりである。透析を中止してから緩和ケアに紹介するのでは遅い。透析を続けている時期から、症状緩和、生活支援、制度利用、家族支援について話し合う機会を持つべきである。
 第三に、緩和的透析という考え方を広げることである。緩和的透析とは、延命だけを目的にするのではなく、苦痛をできるだけ軽くし、生活の質を保つために透析の方法を調整する考え方である。回数や時間、通院方法、在宅支援を含めて、本人の生活に合った形を探ることが必要である。
 第四に、相談体制の整備である。緩和ケア病棟が末期腎不全の患者を受け入れる場合には、腎臓内科医や透析看護師にすぐ相談できる体制が必要である。緩和ケア病棟だけで抱え込まない仕組みをつくらなければならない。

おわりに

 末期腎不全が緩和ケアの対象に加わることは、本来、患者の選択肢を広げる前進であるかもしれない。しかし、緩和ケア病棟が「透析をやめた人が死亡直前に入る場所」と受け止められかねない杞憂もある。リビングウイルの精神は、「死に方」を決めることだけではない。最後までどう生きるかを、自分の言葉で表現し、周囲と共有するプロセスを重ねてゆくことである。透析についても、外来通院で続ける、中止する、在宅で支え在宅で最期を迎えるなど、さまざまな選択肢がありうる。透析を続けるか、中止するか。その選択の前に、本人が何を大切にしているのかを聴く、何が愉しみで、何が心地よいのかをお話しいただき、見える化して共有するプロセスが必要である。また、家族が苦悩と不安を語れる環境が必要である。さらに、医療者同士もともに悩み、苦悩する胸の内を包み隠さず語り合える場が必要である。緩和ケアは、死の直前だけの医療ではない。病とともに生きる時間を新たに生み出す医療であるはずだ。


参考文献

  1. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 4.包括期・慢性期入院医療」。緩和ケア病棟における末期腎不全患者の受入
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001673287.pdf
  2. 大平整爾「透析非導入(見送り)と透析中止(差し控え)への一考察」『日本透析医学会雑誌』2008年。
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/41/11/41_11_761/_pdf
  3. O’Connor NR, Dougherty M, Harris PS, Casarett DJ. “Survival after dialysis discontinuation and hospice enrollment for ESRD.” Clinical Journal of the American Society of Nephrology. 2013;8(12):2117–2122.
  4. Soipe AI, et al. “Current trends in hospice care usage for dialysis patients in the USA.” Journal of Nephrology. 2023;36(7):2081–2090.
  5. Centers for Medicare & Medicaid Services. “Hospice—Determining Terminal Status.”
    https://www.cms.gov/medicare-coverage-database/view/lcd.aspx?LCDId=34538
  6. UW Medicine Newsroom. “Many kidney-failure patients must halt dialysis to receive hospice care.” 2018年4月30日
    https://newsroom.uw.edu/news-releases/many-kidney-failure-patients-must-halt-dialysis-receive-hospice-care/
  7. Wachterman MW, et al. “Association of Hospice Payer With Concurrent Receipt of Hospice and Dialysis Among US Veterans With End-stage Kidney Disease: A Retrospective Analysis of a National Cohort”. JAMA Health Forum. 2022 Oct 7;3(10):e223708. doi: 10.1001/jamahealthforum.2022.3708.
  8. Palliative Care Australia & Kidney Health Australia. “Palliative Care for Chronic End-Stage Kidney Disease: Position Statement.” 2018.
    https://palliativecare.org.au/statement/web-palliative-care-ckd-position-statement/
  9. NHS Kidney Care. “End of Life Care in Advanced Kidney Disease: A Framework for Implementation.”
    https://www.gloshospitals.nhs.uk/media/documents/SUPPORTIVE_CARE_FOR_RENAL_PATIENTS_V5_Oct_17_jLi11qm.pdf