東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウィル)のチカラ」(31)2026年10月

東京都新宿区若松河田 小笠原伯爵邸でランチ

生命維持治療の意思決定を医療と介護と市民で支える

4学会合同ガイドライン最終版の理解と実践

支部長 伊藤道哉

 生命を支える治療を、どのように始め、続け、見直すのか。この問いは,医師や看護師だけのものではない。日々の生活を支える介護職,治療を受ける本人,家族,そして将来その立場になる私たちすべてに関わる。必要なのは,医学的な見通しと本人の価値観を,実際に利用できる医療・介護・意思疎通支援につなぎ,一人に判断の重さを背負わせない仕組みである。
 2026年9月28日、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会,日本緩和医療学会は,「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」の最終版を公表した1)。2014年の3学会合同ガイドラインを改訂し,本編,説明文,緩和ケア別編,Q&A集を整えている2)〜5)8)。その中心にあるのは,多職種による検討と,患者・家族等との対話を通じて,本人にとって最善の医療・ケアの目標を見いだすという考え方である。
 本稿は、この最終版を専門職と一般市民が共に理解し、それぞれの立場から活かすための論説である。医師には医学的根拠と治療の選択肢を示す役割,看護職には症状と意思の変化を継続して捉える役割,介護職には生活の実態と支援の可能性を伝える役割がある。患者・家族には,何を大切にし,何に不安を感じているかを話し合いへ持ち込んでもらいたい。これらは固定的な分業ではない。それぞれの専門性と経験を重ね,判断の抜け落ちを補い合うための役割である。

ガイドラインが示す範囲と地域での活用

 本ガイドラインが直接示しているのは、救急・集中治療を含む急性期病院で生命維持治療の終了・差し控えを検討する際のプロセスである2)。あらゆる在宅療養者や介護施設の利用者に,治療終了を促すものとして適用する文書ではない。病院での判断に地域の情報を届け,病院と地域が必要な準備を共有するために,その理念を活かすことができる。
 本編は判断の基本を示し、説明文は改訂の理由や用語、法的な考え方を補う。緩和ケア別編は苦痛の緩和や家族・支援者へのケアを具体化し,Q&A集は現場の疑問と社会からの懸念を扱う2)〜5)。本編だけのフローを読んで運用を始めず,これらを併せて確認する必要がある。
 一般市民にとっても、ガイドラインは専門家にすべてを委ねるための文書ではない。どのように説明を受け,何を伝え,分からない時に何を尋ねればよいかを知る手がかりになる。ただし,患者や家族が文書を読みこなさなければ適切な医療を受けられないということではない。理解できる言葉で説明し,参加を支える責任は,医療・ケアを提供する側にある。
 以下では、ガイドラインの基本原則と、それを具体化する筆者の実践提案を区別しながら論じる。医師,看護職,介護職の役割を並べた表と事例は,最終版を現場へつなぐための筆者による整理である。

表1 職種と立場ごとの活かし方

表は筆者による実践上の整理であり、ガイドラインの要約と実践の提案を含む。

終末期というラベルよりも判断の中身を確かめる

 最終版は、あえて「終末期」を定義せず、生命維持治療の終了・差し控えが考慮される時に、チームがどのように検討し、患者・家族等と意思決定するかを示している2)3)。これは、終末期という状態が存在しないという意味ではない。余命や病態の類型だけで,個々の患者に必要な判断を尽くすことが難しいという問題への対応である。
 従来の「終末期かどうか」という入口には、確かに限界があった。予後が不確かな重症患者では、治療を始めた時点で,回復の可能性も,残る障害も,本人がどの程度の治療負担を受け入れられるかも十分には分からない。「終末期ではないから見直せない」とすれば,本人が望まない治療が続くことがある。一方,「重い障害が残るから治療に意味がない」と早く決めれば,支援によって可能になる生活を見落とす。
 だからこそ、医療・ケアチームは医学的な見通しと,患者が生きるための支援可能性を分けて確認したい。肺炎や心不全の改善が見込めるかという問いと,退院後に吸引や介護を担う人が足りるかという問いは,関係しているが同じではない。前者は治療の有効性と限界の問題であり,後者には支援体制の調整という課題が含まれる。介護者が疲れていることを,患者の治療が医学的に無益である根拠へ置き換えてはならない。
 人工呼吸器や胃ろうを使って在宅生活を送る筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者を考える。その人が肺炎で搬送された時,ベッド上で動けず,発語できない姿だけを見れば、生活の全体は分からない。在宅では視線入力で家族と話し,仕事や患者会活動に参加していたかもしれない。装置や介助を必要とすることと,本人にとって意味のある生活がないこととは結びつかない。
 反対に、支援制度があることだけで,すべての治療を続けるべきだと決めることもできない。医学的な回復可能性が乏しい場合があり,十分な説明と支援のもとで,本人が負担の大きい治療を望まない場合もある。問うべきは,支援不足によって終了へ傾いていないか,本人の意思が置き去りになって継続へ傾いていないか,という両方の偏りである。

共同意思決定は本人が参加できる条件をつくることから始まる

 最終版の判断を支える柱は,多職種の医療・ケアチームによる臨床倫理的検討と,患者・家族等との共同意思決定,shared decision making(SDM)である2)。厚生労働省の決定プロセスガイドラインも,本人の意思決定を基本とし,医療・ケアチームとの十分な話し合いを求めている6)。
 SDMは,説明を受けて同意書に署名する場面だけを指さない。患者が現在の病状と選択肢を理解し,自分が何を大切にしたいかを伝え,チームが医学的な見通しと負担を共有して,方針を一緒に考える過程である。医療・ケアチームは,説明の後に残る疑問や,その場では言えなかった不安を確かめる役割を担う。
 本人の意思が確認できる場合には,現在の意思を丁寧に確かめる。過去のACP(将来の医療・ケアについての話し合い)や事前指示は重要だが,それだけで今日の方針を固定しない。病状が変わり,説明を受け,苦痛が和らぎ,利用できる支援を知ることで,意思が変わることもある。「以前そう言ったから」という理由で,今の言葉を閉ざしてはならない。
 本人の意思を現在確認できない場合には,家族等が知る過去の言葉や生活から推定する2)6)。その時,「家族が希望する方針」と「本人が希望したと考えられる方針」を分けて聞く。「ご家族はどうしたいですか」に加え,「ご本人なら,この状況をどう受け止めそうですか」と尋ねる。家族の気持ちを軽く扱うのではなく,本人の意思を推定する根拠を一緒に探すのである。
 推定も難しい場合は,本人にとって何が最善かを家族等とチームで検討する。身寄りがない場合も,支援を受ける権利が小さくなるわけではない。家族がいないことを,説明や検討を省く理由にしない。厚生労働省の関連ガイドラインも参照し,医療ソーシャルワーカー(MSW),関係機関,倫理相談の協力を得て,判断の根拠を残す必要がある7)。

TLTは期限の日に自動的に終了する仕組みではない

 期限付きの特定の治療の試行,time-limited trial(TLT)は,予後の不確実性や方針の不一致がある時に,期間と治療ゴールを共有して治療を試み,再評価する方法である2)。患者の命に期限をつけることではなく,「何を待ち,何を確かめるのか」を明確にするための考え方である。
 例えば,重症肺炎で人工呼吸管理が必要になった患者を考える。初療時には,感染が改善するか,意識が戻るか,呼吸器から離脱できるかを十分に予測できない。家族は救命を願い,本人は以前から長く苦しい治療を恐れていた。この時,治療を開始するかどうかだけを迫ると,双方の願いを検討する余地が狭くなる。
 TLTでは,実施する治療,期待する変化,評価する項目,再評価の時期を共有する。具体的な期間は疾患や治療反応によって異なり,すべての患者に同じ日数を当てはめるものではない。期間が来たら,改善したこと,改善していないこと,新たに分かったことを示して,再び患者・家族等と話し合う。継続,期間や目標の見直し,治療の変更などを,その時点の情報に基づいて検討する。
 Q&A集のQ78も,在宅療養や重度訪問介護などについて十分な情報を提供し,意思決定を支える重要性を述べている5)。本稿では,医学的な評価と並行して,生活支援の見通しも確かめることを提案したい。在宅医療側へ問い合わせたか,意思疎通手段を試したか,退院後の支援を調整したか,家族の疲弊に対応できるか。これらは医学的な治療反応そのものとは分けて扱う。しかし,治療後の生活を本人が考えるためには欠かせない。
 支援の調整が期限内に終わらなかったことを,「治療の目標を達成できなかった」と読み替えてはならない。一方,支援調整を理由に,医学的に大きな負担のある治療を無期限に続けることも適切ではない。医学的な限界と,調整中の支援課題を別々に示し,再評価の場で照合する。その丁寧さが,TLTを機械的な終了予定から遠ざける。

DNARを治療全体の制限へ広げない

 DNAR(do not attempt resuscitation)は,心停止時に心肺蘇生を試みないという指示である。最終版でも,DNARを理由に通常の治療やケアまで制限することへの注意が示されている2)5)。医療と介護の連携で防ぎたい誤用の1つである。
 「DNARです」という申し送りだけで,呼吸困難への対応,抗菌薬,輸液,酸素投与などを一括して差し控えてはならない。心停止時の蘇生に関する方針と,心停止前の悪化にどう対応するかは,別に確認する必要がある。挿管,再挿管,非侵襲的換気,集中治療室への移動なども,DNARの一語から自動的には決まらない。
 急変時に迷う項目が残っていれば,担当する医師や看護職へ確認する。呼吸苦が増した時の連絡先,実施する治療,症状緩和の指示,心停止時の対応を整理し,次の勤務者へ渡す。DNARの確認は,患者を支える医療とケアを具体的にする作業でもある。

緩和ケアは救命治療と並行して始める

 日本緩和医療学会の参画と緩和ケア別編の整備は,今回の改訂の重要な点である2)4)。緩和ケアを,生命維持治療を終了した後だけのケアとして扱わない。救命治療の最中にも,痛み,呼吸困難,不安,口渇,せん妄,睡眠の妨げなどを評価し,和らげる必要がある。
 苦痛が強い時,患者は説明を聞く余裕を失い,家族も苦しむ姿だけを見て治療を考えざるを得なくなる。だからこそ,方針を決める前から症状に対応する。痛みの少ない姿勢,口腔ケア,騒音や照明の調整,面会の工夫,安心できる声かけなど,医療職と介護職が役割に応じて取り組めることは多い。必要な薬物療法や専門的な評価は,医師,薬剤師,緩和ケアチームと連携する。
 生命維持治療を終了・減弱する合意に至った場合にも,緩和ケアが途切れてはならない。起こり得る症状,観察する項目,薬剤調整の方法,医師への連絡,家族への説明を事前に共有する。具体的な薬剤や用量は,病状と施設の体制に応じて個別に決めるものであり,実施方法を関係する医療職で共有しておく。
 鎮痛や鎮静についても,目的を明確にする。苦痛を緩和するための適切な使用と,死亡を直接目的とする薬剤投与は,目的と手続きが異なる3)4)。医療・ケアチームは,投与前の症状,投与の理由,投与後の効果と有害な変化を記録し,チームで共有したい。筋弛緩薬で動きを抑えれば,痛みや呼吸困難を取り除けるわけではないことにも注意が必要である。
 死別後の支援も,一律の予定で悲嘆を解決するものではない。家族が相談できる窓口を伝え,強い苦痛や生活上の困難が続く場合に適切な支援へつなぐ。患者の死の前後を通じて,家族が必要な時に助けを求められる関係を残すことが大切である。

医師は見通しと選択肢を示し判断の根拠を開く

 医師が最終版を活かす第一歩は,病名や重症度から結論を急がず,何が分かり,何がまだ分からないかを説明することである。診断,回復の可能性,治療の有効性と限界,治療がもたらす負担を整理し,必要に応じて専門診療科やかかりつけ医の意見を得る。「回復は難しい」という一文だけでは,患者・家族は何を期待でき,何を覚悟すべきかを理解できない。
 ここでいう回復には,感染が治まること,人工呼吸器から離脱すること,意思疎通が戻ること,退院できることなど,異なる内容が含まれる。どの回復が難しいのかを分けて示したい。人工呼吸器から離脱できないという見通しと,支援を受けて生活する可能性がないという結論を,同じものとして説明してはならない。
 患者・家族の話を聞いたうえで,医師は医学的に妥当な選択肢と,勧める方針がある場合にはその理由を示す。「家族が選んでください」と判断を丸ごと渡さず,逆に「医師が決めたので従ってください」と対話を閉じない。本人が何を大切にするかを踏まえ,利益と負担,不確実性を一緒に検討することが,共同意思決定を具体化する。
 また,説明の場へ看護職を呼ぶだけで多職種の検討が成立するわけではない。看護職の症状評価,介護職が知る入院前の生活,リハビリテーション職が捉える機能,MSWが調整する支援を,治療目標に反映させる必要がある。「この見通しを,患者の生活情報と照らすとどう考えるか」と尋ね,異なる意見が出る場をつくることも医師の重要な役割である。
 治療方針を定めたら,対象となる治療と実施条件を具体的な指示にする。心停止時の蘇生,新たな挿管,治療の増強,症状緩和を区別し,夜間や担当交代後に判断が漂流しないようにする。苦痛への対応,連絡先,再評価の時期も共有する。方針を示す責任と,変更に応じて見直す責任は,説明の1回で終わらない。
 医師が現場で使える問いは,「医学的に難しいことと,支援が整っていないことを分けて説明できているか」である。その問いが,治療の限界を誠実に伝えることと,生活の可能性を過小評価しないことを両立させる。

看護職は症状と本人の意思を継続して確かめる

 看護職の強みは,治療の前後と昼夜の変化を,患者のそばで継続して捉えられることである。呼吸の苦しさ,痛み,不安,口渇,眠れなさ,処置への反応,説明を受けた後の表情を確認する。治療が本人の目標へ近づけているか,負担が受け入れられる範囲にあるかを,観察と対話からチームへ伝える。
 説明の立ち会いでは,誰が何を理解し,どの問いが残ったかを確かめたい。医師の前ではうなずいた患者が,後で「家に戻れないと思っていた」と話すこともある。家族の「何でもしてほしい」が,実は「苦しまないようにしてほしい」という願いを含む場合もある。看護職は,言葉を結論へ急いで変換せず,意味を確かめる。
 意思表示が難しい場合には,文字盤,筆談,視線入力などを試し,普段の方法を知る家族や訪問看護師,言語聴覚士などと連携する。表情や動きについても,観察した事実とその解釈を区別する。鎮静やせん妄,疲労が影響していれば,確認の条件を見直す。本人の声を拾うことと,医療者の解釈を本人の声に置き換えないことは,どちらも必要である。
 TLTの期間中には,医師が設定した医学的指標に加え,苦痛の変化と生活支援の進み具合を記録する。DNARがある場合も,それを通常の治療やケアの制限へ広げず,不明な指示を確認する。方針が変わった時には,口腔ケア,体位調整,面会,家族支援,薬物による症状緩和がどのように続くかを具体化する。
 看護職が現場で使える問いは,「本人が考えを伝えられる条件は整ったか,苦痛を取った後にもう一度確かめたか」である。その問いを,患者の言葉,確認方法,未決事項,再確認の予定とともに記録し,次の担当者へ渡す。

介護職は日常の生活と支援の可能性を届ける

 介護職は,食事,排泄,移動,入浴,外出,家族との時間など,病院だけでは見えにくい暮らしを知っている。人工呼吸器を使い,全面的な介助を必要とする人であっても,何を楽しみにし,誰と関わり,どのように意思を伝えているかを具体的に説明できる。この生活情報は,医学的な見通しとは種類が異なるが,本人にとって治療が何を支えるのかを考えるうえで欠かせない。
 救急搬送時や入院時には,「全介助」「意思疎通困難」といった短い分類だけで引き継がない。「普段は視線で返答する」「午後は疲れて反応が遅くなる」「週1回の外出を楽しみにしている」など,生活の実像を届けたい。情報は,本人の希望と必要な共有範囲を確認し,所属事業所の手順に沿って医療側へつなぐ。
 家族の介護負担を把握している場合は,負担の中身を分けて伝える。夜間の支援が足りないのか,吸引への不安が強いのか,家族の健康が損なわれているのか,サービスの空白があるのか。「介護不能」という一語に圧縮すると,調整できる課題が見えなくなる。介護支援専門員,相談支援専門員,MSW,訪問看護などと連携して,追加できる支援と現実の障壁を確かめる。
 介護職は,治療終了の医学的判断を代行する立場ではない。しかし,判断に参加するための情報を提供し,本人が伝えられない希望や,生活を過小評価する見方に疑問を示すことはできる。「病院では反応が乏しくても,普段はこの方法で話しています」という一言が,意思確認の進め方を変えることがある。
 在宅や施設でDNARの情報を受け取った場合も,「急変しても何もしない」と読み替えない。本人・家族,医師,看護職と,呼吸苦や発熱,意識の変化にどう対応するか,誰へ連絡するか,救急要請の方針は何かを事前に確認する。介護職に医学的な判断や投薬の変更を一任せず,各職種が自らの業務範囲で実施できる対応を明確にする。
 介護職が現場で使える問いは,「この人が普段どのように生きているかと,何を支えれば暮らしが続くかを,医療側へ伝えたか」である。生活を知る専門職の参加によって,病院のベッド上の状態だけに偏った判断を補うことができる。

薬剤師やリハビリテーション職などの専門性を重ねる

 多職種の検討は,医師,看護職,介護職の3者だけで完結しない。薬剤師は,鎮痛薬や鎮静薬を含む薬剤の効果,副作用,相互作用,臓器機能に応じた調整を検討する。薬を減らす場合にも,単に数を減らすのではなく,苦痛や状態への影響を確かめる。
 理学療法士,作業療法士,言語聴覚士などは,動作,活動,意思疎通,食べることの可能性を評価し,本人が参加できる生活を具体化する。臨床工学技士は機器の管理や安全な対応,管理栄養士は栄養の目的と負担,MSWは制度と生活上の課題の調整を担う。患者の必要に応じて各職種の知見を持ち寄り,実施可能な計画へ結びつける。
 重要なのは,参加職種の数を増やすこと自体ではない。患者の目標に関わる未確認の問題について,誰の専門性が必要かを考え,情報と提案が実際の方針に反映されるようにすることである。

患者と家族と市民は何を尋ね何を伝えればよいか

 一般市民が最初に知っておきたいのは,「生命維持治療」と呼ばれる医療には,人工呼吸器や透析だけでなく,病状によって栄養や水分の補給なども含まれるということである。それらが必要かどうかは,治療の名前だけでは決まらない。本人の状態,期待できる効果,負担,望む暮らしを一緒に考える必要がある。
 説明を受けた時には,「この治療は何をよくするためですか」「どの程度の回復が期待できますか」「分からないことは何ですか」と尋ねてよい。「治療を続けた場合と見直した場合,それぞれどのように苦痛を和らげますか」「退院後に使える支援はありますか」も重要な問いである。専門用語が分からない場合には,言い換えを求めてよい。
 本人は,生活の中で大切にしたいことと,避けたい負担を伝えたい。例えば,「家族と話せる時間を守りたい」「苦痛が和らぐなら治療を試したい」「家で暮らす方法を知りたい」といった具体的な希望である。今すぐ結論を出せない場合は,何を知れば考えられそうか,誰と一緒に話したいかを伝えることも参加になる。
 家族は,本人の考えを知る重要な協力者である。しかし,患者の生死を一人で決める役割を背負う必要はない。本人が以前に話していたことと,家族自身が現在望むことを分けて伝え,医学的な判断は医療側と一緒に検討する。家族で意見が異なる時も,違いを隠さず相談したい。
 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は,将来の医療やケアについて,本人の価値観を大切な人や支援者と繰り返し話し合う取り組みである6)。「人工呼吸器を使うか」という問いだけでなく,何を恐れ,どの支援を知りたいか,意思を伝えられなくなった時に誰に自分の考えを伝えてほしいかを共有する。紙に書くことは助けになるが,一度書いた内容で将来のすべてが固定されるわけではない。
 病状や気持ちが変わった時は,その変化を伝えてよい。家族がいない人も,信頼する人や支援者について相談できる。身寄りがないことや,意思を伝えるのに時間がかかることを理由に,説明や支援が省かれてよいわけではない7)。
 社会の側にも役割がある。介護の担い手が足りない,意思疎通の支援が届かない,地域にサービスがないという問題を,本人の命の価値へ置き換えないことだ。制度と支援の不足を改善する課題として扱い,患者・家族の経験を医療・介護体制の見直しへつなぐ必要がある。

記録は合意したこととまだ決めていないことを渡す

 最終版は,説明の内容,患者の意思や推定意思,その根拠,検討の経過,参加者などを診療記録に明瞭に残すことを求めている2)。記録は,意思決定の適切さを後から検証するためにも,患者を支える情報を次の担当者や施設へ渡すためにも必要である。
 「家族了解」「延命希望なし」とだけ書くと,何が話し合われたかが消えてしまう。何を説明したのか,どの治療について合意したのか,本人の言葉があったのか,家族が何を根拠に推定したのか。家族の意向と本人の意思を,同じ欄にまとめないことも大切である。
 患者の言葉は,できるだけ具体的に残したい。「家に帰れる可能性があるなら治療したい」「息苦しさをまず何とかしてほしい」「家族に負担をかけることが心配だ」。その言葉をいつ,どの状況で,どの方法で確認したかも重要である。鎮静やせん妄の影響が疑われた場合は,確認の限界と再確認の予定を記載する。
 本稿では,提示した支援と未調整の支援も残すことを勧めたい。訪問看護へ照会した,意思疎通手段を試した,MSWや支援の調整担当者へ相談した,緩和ケアチームが評価した。こうした事実は,「支援は検討済み」と一括するより,次のチームが何を引き継ぐべきかを示す。
 合意だけでなく,未決事項も書く。「再挿管の方針は次回に検討する」「家族内に異なる意見がある」「本人の意思を明日再確認する」。誰が確認し,いつ話し合うかまで分かれば,迷いが置き去りにならない。話し合いが終わっていないことを,記録の不備として隠す必要はない。
 退院や転院の際には,結論の一文だけを送らない。患者の価値観,治療の目標,合意した対応,再評価の条件,相談先を必要な範囲で共有する。病院の指示が,在宅や施設で同じように実施できるとは限らない。受け取る側が実際に対応できるかを確かめてこそ,記録は連携の道具になる。

ガイドラインは自動的な法的免責を与えない

 生命維持治療をめぐる判断では,法的な不安も大きい。説明文は過去の事件や司法判断を整理し,ガイドラインに沿った意思決定の意義を論じている3)。Q&A集のQ48は,現場の実務的な指針であるソフトローとしての役割を説明する5)。これを,あらゆる行為が無条件に免責されるとの保証に読み替えてはならない。
 また,過去の裁判で示された個別の判断を,「治療終了はどの状況でも適法とされた」と広げることもできない。患者の病状,意思確認,説明,実施した行為は,事案ごとに異なる。治療終了に関する議論と,死亡を直接目的とする薬剤投与に関する議論を混同しないことが必要である。
 ガイドラインは,専門職の判断と手続きを支える規範として重要な役割を持つ。その一方で,法律そのものでも,適法性を自動的に保証する証明書でもない。専門職には,法的な結論を独力で出すことより,患者の意思,医学的根拠,多職種の検討,苦痛への対応が具体的に示されているかを確認する役割がある。
 疑問が残る時には,主治医だけに確認して終わらせず,必要に応じて臨床倫理相談,医療安全部門,法務などの協力を得る。相談した事実だけでなく,どの疑問について何を検討したかを記録する。相談は,責任を外へ移すためではなく,判断をより確かなものにするために行う。

共通事例で役割がどうつながるかを考える

 次の事例は,職種ごとの役割を示すために構成したもので,実在の患者の記録ではない。人工呼吸器を使って在宅療養するALS患者が肺炎で搬送されたとする。病院では発語も四肢の動きも乏しく,家族は「もう介護は限界です」と話した。しかし,在宅では視線で意思を伝え,訪問介護を受けながら家族との時間を楽しんでいた。
 医師は,肺炎の重症度,治療の効果,回復の見通しを示す。同時に,ALSによる慢性的な障害と,今回の急性の病状を区別する。看護職は,呼吸苦と疲労を評価し,意思疎通できる条件を整える。介護職は,普段の返答方法,生活の楽しみ,夜間支援が不足していたことを届ける。MSWや支援の調整を担う職種は,追加できるサービスを具体的に検討する。
 本人が「肺炎の治療を受けて家へ戻りたい」と伝えられたなら,その目標を共有し,医学的な見通しと支援の調整を進める。症状が重く十分な意思確認ができない場合には,過去の言葉を確かめ,不確実性に応じてTLTなどを検討する。家族の「限界」は,患者の生活に意味がないという情報ではなく,支援を見直す必要を知らせる情報として扱う。
 その後,予想以上に病状が悪化し,治療の負担が大きくなった場合も,当初の方針へ固定しない。本人の現在の意思,医学的な限界,苦痛,利用できる支援を再び照合する。生活の情報を集めれば必ず継続という結論になるわけではなく,重症だから直ちに終了になるわけでもない。結論に至る前に何を確かめたかが重要なのである。
 もう1つ,介護施設の利用者にDNARの指示があり,夜間に発熱と呼吸苦が生じた場面を考える。介護職は事前の計画に沿って状態を確認し,看護職や医師へ連絡する。医師は必要な評価と治療を判断し,看護職は症状と対応の効果を確認する。DNARは心停止時の蘇生に関する方針であり,この段階の診療や苦痛へのケアを一括して省く理由にはならない。連絡方法や救急対応が未確認なら,日頃からそれを埋めておく必要がある。

表2 共通事例で役割をつなぐ3つの場面

表は筆者による実践上の整理。ガイドラインの要約と実践の提案を含む。

組織は対話と支援が実際に届く体制を整える

 各職種の努力だけでは,ガイドラインの理念は実現しない。病院,診療所,訪問看護事業所,介護事業所,施設の管理者は,相談と連携の経路,夜間の連絡,記録の共有,職員教育を整える必要がある。患者を知る地域の職員が,病院の話し合いに情報を届けられる仕組みも重要である。
 カンファレンスでは,医学的な見通し,本人の意思,苦痛,生活支援,未決事項を区別して扱う。本人の意思を確認する方法が未実施なら担当を決める。在宅サービスが未調整なら,誰がいつ確認するかを決める。チーム内や患者・家族との意見が一致しない場合には,臨床倫理相談などの協力を得る2)。相談は判断の責任を外へ移すためではなく,根拠と進め方を確かめるために行う。
 また,患者や家族のつらさに接し続ける職員の負担にも対応したい。正しいと思う支援を実施できない葛藤や,死別に関わる疲労を,個人の弱さとして扱わない。振り返りの場,必要な相談,人員と勤務の調整を通じて,支援を担う人を支える4)。
 運用を点検する際も,治療終了の件数だけで評価しない。意思疎通の支援が試されたか,必要な生活情報が集まったか,苦痛への対応が行われたか,DNARの範囲が共有されたか,未決事項が次の担当者へ渡ったかを確認する。本稿では,こうしたプロセスの点検を,施設と地域が共同で行うことを提案したい。

本人の選択を実際に選べる道へつなぐ

 最終版の意義は,結論を職種ごとに分担することにはない。医師の医学的な説明,看護職の継続的な観察,介護職の生活情報,他の専門職による評価と支援調整,そして本人・家族の経験が重なって,判断の土台ができる。
 生命維持治療の継続も,終了・差し控えも,患者の価値観と医学的・倫理的な妥当性を離れて決めることはできない。支援不足によって選択肢が狭まっていないか,本人が望まない負担の大きい治療が続いていないかを,双方から確かめたい。そのために,分からないこと,まだ試していない支援,意見の違いを言葉にし,記録し,再び話し合う。
 患者が自らの価値観に基づいて生きることを支えるという理念を,病院の中だけに置かない。医療と介護と市民が,それぞれの立場から患者の声と生活を届け,意味のある選択肢を,実際に選べる道へつなぐ。その実践によって,ガイドラインは社会にとっての支えとなる。

引用・参考文献/参照サイト一覧

1)日本集中治療医学会,日本救急医学会,日本循環器学会,日本緩和医療学会:「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」の公表,2026年9月28日.
https://www.jsicm.org/news/news260928.html
2)同4学会:救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン 本編,2026年9月.https://www.jsicm.org/pdf/WWLSTGL/main.pdf
3)同4学会:同ガイドライン 説明文,2026年9月.
https://www.jsicm.org/pdf/WWLSTGL/explain.pdf
4)同4学会:同ガイドライン 緩和ケア別編,2026年9月.
https://www.jsicm.org/pdf/WWLSTGL/supplement.pdf
5)同4学会:同ガイドライン Q&A集,2026年9月.
https://www.jsicm.org/pdf/WWLSTGL/QA.pdf
6)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン,2018年3月改訂.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf
7)厚生労働省:身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン及び事例集,2019年.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/miyorinonaihitohenotaiou.html
8)日本集中治療医学会,日本救急医学会,日本循環器学会:救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン 3学会からの提言,2014年.
https://www.jsicm.org/pdf/1guidelines1410.pdf