東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウイル)のチカラ⑯」


震災後に明るい展望

日本尊厳死協会東北支部顧問(宮城県) 
橋村 襄

 組織の前線基地をどのように築くか。前線の基地をどこに置くかは、組織の死活を握っている。2010年(平成12年)当時、東北6県を範囲とする協会の支部事務所は、仙台市青葉区大町のマンション一室に間借りしていたが、事情があって、移転を迫られていた。新しい事務所を仙台市内のどこにするか。郊外なら静かでいいし、物件賃料は安く、求め易いが、交通の便など出入りに難がある。市内中心部のマンションやアパートも当たってはみたものの、とにかく賃料が高い。賃貸条件もいろいろと厳しい。悩んでいた。
 
協会支部事務所の要件は、支部役員・会員が自由に、気兼ねなく訪問できることが第一だ。事務所内で少人数のミーテングならできるスペースは欲しい。資料の保管、本部や会員等への連絡・通信、さらにプライバシーの保護も必要だ。そのためには、誰もが気軽に使える交通に便利な場所がいい。平穏でプライバシーの保たれる台所・洗面設備も是非だ。しかし、これらの要件を満たすとなると、交通の便利な場所での物件探しは、難しい。第一、賃料が桁違いに高くなる。

 頭を悩ませていた時、東日本を揺るがした「3,11」の大震災である。仙台市内の揺れは大きく、人的・物的被害も多く出た。マンションなど高層階の揺れも激しく、住むのに不安を抱く人も多かった。そのためもあってだろうか。この大震災後、仙台市内でも売却の建物や空室がかなり出た。しかも、売却・賃料物件とも、震災前に比べると、桁違いに安い。
 
これは、見逃せない。仙台市青葉区一番町一丁目。7階建て、7階の一室。現在の協会東北支部である。広い幹線道路から少し入ったところで繁華街に近いが、閑静だ。交通機関利用には便利。加えて、台所やトイレ、水道、電気・ガス、冷暖房も完備。仕事をするにも会合にも、好都合である。

賃貸契約に当たって、本部からは、「安過ぎて、床が落ちるのではないか」「本の重さに耐えられるか」とさえ、冗談交じりの指摘が出たほどだったが、入居して11年、それらの心配は杞憂になっている。

(元東北支部支部長 元新聞社論説委員)