東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウイル)のチカラ⑲」
「緩和ケアにはまだ早い?」
日本尊厳死協会東北支部理事(宮城県)
井上 彰
多くの方が持つ緩和ケアのイメージは、「余命幾ばくもないがん患者が最期に苦しまないために受ける医療」なのかもしれません。
もちろん、そのような質の高い「終末期医療」を緩和ケアが担うことは確かですが、世界的には「早い時期から緩和ケアを受けた方が、より良く生活ができる」ことが常識とされており、我が国でも「がんと診断された時からの緩和ケア」が重要な施策とされています。
「痛くも苦しくもない時期に緩和ケアを受けて何の役に立つのか?」
こんな疑問を持たれるかもしれませんが、単なる身体の辛さだけでなく、不安や抑うつなど精神的な問題への対処や、介護保険その他の様々な福祉制度を上手く活用した療養生活の支援なども緩和ケアの大事な役目です。
さらには、今は困っていなくても先々に向けた安心のため、早めに緩和ケア病棟の予約をしておきたいといった要望に対応することもできます。
最近はその辺を理解した患者さんやご家族が、がん治療の主治医に対して「緩和ケアの医師にも紹介してください」とお願いすることが増えてきたようです。
ところが、主治医から「あなたに緩和ケアはまだ早いですよ」と無下に断られたとの事例を少なからず耳にします。
残念ながら時代に追いつけていない医師は未だ非常に多く、そのような医師に担当されるとギリギリの段階まで適切な緩和ケアが受けられず、患者さん、ご家族の希望に沿わない療養生活になってしまいかねません。
もし、皆さんやお知り合いがそのような場面に出くわしたなら、話の通じない医師に無理にお願いし続けるのではなく、各病院に何人かはいるはずの「緩和ケアを得意とする医療者(医師や看護師)」に相談してください。必ず何がしかの打開策を教えてくれると思います。
ちなみに私が勤めている東北大学病院でも、主治医を介さずとも緩和ケアの相談ができる体制を整えております。
中でも「がん診療相談室」は、他所の病院をご利用の患者さんやご家族でも電話や現地での相談が可能です。
どうぞ、お困りの際にはお役立ていただけますと幸いです。
(東北大学病院 緩和医療科 科長)