東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウイル)のチカラ⑱」



残りの人生、どう生きたいですか?」

日本尊厳死協会東北支部理事(岩手県) 
河辺 邦博

今から30年程前、あるTV番組の打ち合わせで、宇宙工学の学者やロケット開発に取り組む日本の最先端技術者の方々と懇談したことがある。H -Ⅰロケットで宇宙に人や物資を送るという日本の宇宙ビジネスについて語る番組内容だったと記憶している。聞き手の私は全くの文系。緊張してその席に臨んだ。

しかし、先生方は実に分かりやすく話してくれた。その中で、最も印象に残った話は「確率」の話だ。
私が「日本最先端のH -Ⅰ ロケットの成功の確率はどれぐらいなのですか?」とロケット開発製造企業の技術責任者に聞くと「かなり高い確率です。だけど、自分自身が今、H -Ⅰに乗るかと問われるとまだ乗らない」
私はのけぞった。しかし彼は続けて「100%成功するとは言えないが、かなり高い確率で打ち上げは成功するでしょう」

ここで「確率の話」になった。我々の周りを見回してみると、確率はいたるところにある。技術者はこんな問いを投げかけた。「宝くじで数億円当たる確率は?あなたが旅客機に乗って墜落してしまう確率は?」。そして、ニヤッとしてその高名なロケット開発技術者は答えた。「実は、この二つの確率はほぼ同じなのです(当時の数字)。なのに人は億万長者の夢を抱きながら宝くじを毎回買う。私が搭乗する旅客機は落ちるはずがないと思い空の旅を楽しむ」。つまり同じ数字なのに受け取り方は当人の主観なのだ。

 数字は魔物だ。私たちの頭を固定化する。近年特に数字が説明に使われ、説得力を持つようになった。多くの人は数字を突きつけられると信じやすい。数字に罪はないが、どう受け取ったらよいかは一度立ち止まって考える癖をつけたい。

例えば、多くの国民が注目するする数字に、国が毎年公表する「平均寿命」という数字がある。政策立案や保険の仕組みには欠くことができない数字であろう。私たちは日本の平均寿命(2022年)は、男性が81.05歳、女性が87.09歳と言われると、平均寿命から自分の今の年齢を引いて、あと何年生きられかと勝手に思う。この年数をもとに人生設計を考える。

しかし、そもそも平均寿命(正しくは平均余命)は、その年に生まれた子が何歳まで生きるかの数字だ。つまり計算しているあなたの寿命ではない。
私は1949年生まれです。その年の0歳児の平均余命は男性56.2歳、女性59.8歳。「えっ!ほんとはとっくに死んでるのか。俺って結構長生きしてるじゃん」なのである。皆さんも、あなたが生まれた年の0歳児の平均余命を見てみよう。ついでに今年発表の簡易生命表も見てみよう。あなたの現在の年齢の平均余命も出ている。
あるお笑いタレントのセリフ『生きてるだけで丸儲け!』。名ゼリフだ。

 「リビング・ウイル」は残りの人生をどのように生きたいかを自らに問い、考える機会としたい。数字はあくまでも目安、どのように読み取るかはおのれの「チカラ」だ。

元IBC岩手放送アナウンサー・社会福祉法人愛育園理事長

元IBC岩手放送のアナウンサーとしてラジオやテレビの番組で活躍
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