LW(リビング・ウイル)のチカラ⑪

30年前に担当したある患者さんの最後のあり方をいまも思う鈴木秀和院長。


最後は感謝の気持ちを伝えたい。

日本尊厳死協会東北支部理事(青森県)
鈴木秀和

私はまだ70歳一歩手前ですが、すでに心臓の冠動脈にステントが入っており、昨年秋にはネフローゼ症候群も発症しました。
原因疾患としてがんの一種である多発性骨髄腫が疑われ、血液内科に回されたときはさすがに人生最後の瞬間を考えたりもしました。

幸い癌ではなく腎生検をして膜性腎症の診断となり、まだ先は長いと安堵しましたが、人生のエンドステージに近づきつつあることを実感させられました。

その時頭に浮かんだのは30年位前に受け持った末期の肺がん患者さんでした。最後を迎えるにあたり鎮痛鎮静剤を使わないでほしいと強く希望し、家族に見守られる中、息も絶え絶えに「ありがとう、ありがとう、、、」と意識がなくなるまで繰り返し感謝の気持ちを伝えて息を引き取られました。
私はただ見守っているだけでしたが、ご本人や家族にとって最後の別れを持つことができたのは良かったと思っています。

その最後のあり方は私の選択肢の一つになっています。
癌かもしれないと思ったとき、家族や仕事のこと、今後の治療経過など様々なことが頭をよぎりました。しかし、キュブラーロスの言う怒りや否認などの感情は生まれませんでした。死ぬことが迫っている深刻な状態になっていなかったからなのかもしれません。普段から死について考えていると思っていたのに人は究極の状態にならないと自分がどのように感じてどう対処するのかその時にならないとわからないのだ、と実感しました。

その時どのように感じ行動をするのかは、それまでの経験や考え方に影響されるのかもしれません。究極の状況で自分がどのような行動をとるのか心配ですが、自分の人生が満足できるものであれば穏やかな最期を迎えられると信じて残りの人生を充実させていきたいと思っています。
そして、最後は、感謝の気持ちを伝えられたらと願っています。

(ひでかず胃腸科内科 院長)

人生を充実して日々の診療を、「ひでかず胃腸科内科」。スタッフ全員と。
生きる喜びが輝く。みちのくを代表するお祭り「ねぶた祭」。