東北支部リレーエッセイ「LW(リビング・ウイル)のチカラ⑭」

念願の外科医から「在宅ケア医」への転身

日本尊厳死協会東北支部理事(秋田県) 
市原 利晃

「ブラックジャック」というマンガの主人公のような外科医になりたいと思ったのは、祖父の病気がきっかけでした。

医学部で学ぶ病気にはそれぞれに診断方法と治療方法があり、病気は治るのが普通のように思えてしまいます。しかし実際に臨床現場に立つと、診断がつかないものや治療に限界があるもの、治療方法がないものがたくさん存在し、むしろ治療できる病気の方が限られていることに気づきます。外科医の時は手術という積極的な治療法に自信をもち、一定数存在する手術で治せない症例は外科の限界だと割り切っていました。そんなとき在宅医療に触れて、手術に限界があっても医療でできることはたくさんあることを知らされました。

総合病院外科で受け持っていた末期癌患者さんから「うちに帰りたい」と相談され、医療機器が外せず退院は難しいと返事しました。
しかしその時期に盛岡で、同じような患者さんを在宅医療で対応できている事を知りました。同じ日本の同じ時代で、同じ医療が実現できるはずなのに、盛岡と秋田の現実と訪問診療の可能性に気付き、訪問診療を始めました。
医学は病名をつけるためのものでは無く、症状を緩和して日常生活を充実するために利用するべきものだと、今は考えられるようになりました。

在宅ケアにつなげるためにはアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が大切だと感じます。
今は多職種の連携体制が充実していて、急性期を過ぎれば自宅で生活しながら療養ができるようになりました。医療は患者さんのためのものであり、患者さんの価値観と照らし合わせて行うことが大切です。道に迷わないために目標設定は必要であり、だからこそのACPです。そのゴールはいつでも変更可能です。人生の幕引きについてはリビングウィルや尊厳死、エンディングノートなど、いろいろな形で取り上げられています。高齢社会がすすみ認知症や突然死なども珍しくない現代になり、その中での生活をより充実させるためにも、生き方を見つめ直すことは大切だと思います。

医療法人社団 隆仁会 理事長

手術に向かう市原先生
漫画の天才外科医「ブラックジャック」に憧れ、手術で治すと活躍も限界が…
患者さんと話す市原先生
「患者さんのための医療」を考えて「在宅医療」に。そこから広がる可能性。