延命希望も一つのリビングウイル

協会では、これまで延命治療の拒否をもって尊厳死としてきましたが、本人が(話し合いによ る意思表示の結果)延命治療を希望したら、それを尊重するのも尊厳死である、としていいと考え ます。
私が訪問診療をしていた、慢性心不全や漫然 腎不全、認知症を抱えた男性(享年92歳)がい ました。「生ききる」ことにこだわり、主治医の私に希望を伝えました。「心肺蘇生、人工呼吸器など、できるのであればやりたい。その時も、『まだ死んでなるものか ! 』 と思うから 。『 これが限界だよ、それでは失礼します』と言って、逝きたい」、「先生、あちらに行く時は、死んだ妻の写真を一枚入れてください。(自分で意思が伝えられなくなった時の)代理人は、娘にしてください。娘の判断が自分の意思と違ってもかまいません。私が死んだ時、娘は泣いていると思うけど、『父さんは生ききったから、どうか嘆かないでくださ い』と、伝えてください」、この話をしながら、男 性も娘さんも泣いていました。 男性の意向は医療スタッフにも周知され、男 性の意思はかなえられ、死の不安におびえたり 抑うつ状態になったりすることもなく、最後は病 院で亡くなりました。ご本人、娘さんらみんなに 満足と納得が残ったと思われます。 これまで、延命拒否をリビングウイルとする考 えが主流となっていましたが、このような延命治 療の希望も一つのリビングウイルと考える時代が来たようです。

支部長 白髭 豊