LW(リビング・ウイル)のチカラ④

三浦 亮支部理事と秋田赴任の機縁となった
故柴田 昭先生の遺影


秋田への機縁。
畏兄 柴田 昭 先生 逝く

日本尊厳死協会東北支部理事(秋田県)
三浦 亮

2021年9月23日(木)秋分の日、血液学の教育、研究に大きな業績を残された新潟大学名誉教授 柴田 昭 先生が、90年の生涯の幕を閉じられました。「人生は邂逅なり」と言いますが、これまで私が出会った方々の中で、「この方のお陰で今の自分がある」と思っている方のお一人です。

私は、東北大学医学部を卒業後、医師国家試験直前に腎炎を発病、一年余りの入院を余儀無くされた時、東北大学附属病院の第二内科の病室までお見舞い頂いたことが柴田昭先生との最初の出会いでした。退院後は、病理学教室で電子顕微鏡を使って当時の最先端の研究に励み、博士号を取得した後、内科学教室に戻って、柴田先生率いる血液グループでリンパ節の研究をしました。それが私の血液内科医としての出発点です。

1970年、柴田先生は新設の秋田大学医学部に二人の若い医師とともに赴任され、半年後に先生のお誘いを受けて私も秋田に赴きました。設備、環境がまだ整っていなかった新設の大学で、血液疾患の診断、治療に遮二無二頑張ったあの頃が、私の医師としての力が培われ、人間的に成長した時期でした。柴田先生の周りにはいつも人の輪ができ、天性の人間的魅力を兼ね備えたリーダーでいらしたと思います。

2年後に先生は新潟大学教授に招聘され、その後を任された私は長く秋田大学に奉職しました。60年に渡り私の精神的な支えであった柴田昭先生のご逝去は、痛恨の極みですが、私も既に85歳、心身ともに衰えましたけれど、若い方々に少しでも力と安らぎを与える存在でありたいと思っております。

秋田は自然豊かな地です。若い頃の私は登山が趣味で、秋田でも医局員や職員とともに鳥海山、秋田駒ケ岳等々を楽しみました。

スウェーデンの社会学者ラーシュ・トーンスタムが提唱した「老年的超越」とは、高齢になって至るとされる主観的幸福感とか。尊厳死協会に入会していることもプラスしているのでしょう。もう登れない山を眺めながら、私は今、静かに安心感、幸福感を感じる日々です。

(元秋田大学学長)

豊かな自然の秋田での登山を楽しむ若き日の
三浦支部理事(左端)
美しく雄大な自然に恵まれた秋田。鳥海山の法体の滝