【情報BOX】病院の倫理委員会
病院には、倫理委員会という組織があることをご存知ですか? 「初めて聞いた」「いったい何をするところなの?」と思われる方も多いことでしょう。ここでは、この「病院の倫理委員会」について説明していきたいと思います。
◎倫理委員会って何をするところ?
病院の倫理委員会は、病院内での診療や研究にまつわる倫理的な問題について審議し評価するところです。患者の権利や利益を保護する視点から、選ばれた複数の専門家が話し合い問題を解決する仕組みです。また、部署から独立して、病院全体で倫理の問題に対応するための組織になります。メンバーは専門性が偏らないように医師、看護師、薬剤師、その他の医療職を中心に構成されています。医療者の意見に偏らないように法律家、生命倫理学者などの有識者や患者などが外部から参加する場合もあります。メンバーにはそこで話し合われたことを口外しない守秘義務があり、秘密が守られます。
この倫理委員会には、二つの役割があります。一つは、院内で医学的な研究が行われる場合に、その研究対象者(患者)に、参加することの負担を述べているか、受ける治療などのリスクと効果のバランスの評価が行われているか、患者への説明同意文書が的確か、個人情報の保護の方法が書かれているか、透明性の確保などが行われているかなど、研究の倫理的な側面を検証していくものです。「研究倫理審査委員会」とも呼ばれ、国の規制(臨床研究に関する倫理指針✳︎)によって取り組みが義務付けられているもので、臨床で行われる研究はこの倫理委員会の承認を得た上で行われています。
もう一つは、院内で一部署では判断することが難しい比較的重大な倫理的な問題が起きた時に、当事者の医療者や患者は交えずに、第三者的に解決にむけて適切な判断を示す役割です。「臨床倫理委員会」とも呼ばれています。
このような委員会はどの病院にも設置されていますが、中小の病院などでは同じ役割でも名称が違ったり、院内では設置が難しく第三者機関に依頼している場合もあります。この事例の倫理委員会は、二つ目の「臨床倫理委員会」のことと思われますので、ここでは臨床倫理委員会を想定してお話ししていきます。
◎臨床で判断に悩む倫理的な問題とは?
倫理委員会にかけられるような判断が難しい倫理的な問題とは、どのようなものでしょうか? 例えば、終末期状態にある患者の生命維持治療の中止・差し控え、がん告知、身体拘束に関することや、宗教的理由に基づいて輸血を拒否するなど生命を脅かす可能性のあるケースなどです。治療法、患者への対応などで医療者が判断に悩む問題が挙げられます。
◎倫理委員会が守ろうとしているもの
では、なぜ、煩雑な手続きを踏んで倫理委員会に判断を仰ぐのでしょうか? 一般に、一定の手続きを踏んで複数人で議論を重ねて出した結論には意味があると考えられています。重要な判断について、患者の尊厳や人権・安全を守り、適切に注意深く一つ一つの問題を検討していくためです。
この事例の場合、主治医が、患者が意思表示しているような胃ろうを設置しないということに対してなんらかの倫理的な葛藤を感じ、広く第三者の見解を知った上で判断したいと倫理委員会に相談したものと思われます。この事例にように患者の意思が示されている場合、意思が尊重されるケースが多いと思います。しかし、中には患者の意思を理解し、尊重したいという思いと、 その時の病状などから医療者としての判断との板挟みで悩むことがあると思います。主治医が判断に迷う時、看護師がこのケアでよいのかと悩む時、その手助けになるのが倫理委員会です。
◎患者の最善を考えるための仕組み
私自身がこの事例の患者本人や家族であって、同じような立場に置かれたらどうだろうと想像すると、きっとそのような公平な場で話し合われて出された結論には、ある程度納得がいくのではないかと感じます。
生命を左右する重要な問題を前に患者が悩むように、医療者もまた本人の意思が示されていたとしても悩むと思います。その際に独断に陥らず、さまざまな専門家が意見をもち寄って、今の状況に基づいて患者の最善の方法を考えることは、患者・家族にとっても心強いことだと思います。患者の意思決定を支える仕組みの一つとして、そうした手続きがシステムとして確立していること、 文書や記録が開示され開かれた組織であることは重要です。
✳︎「臨床研究に関する倫理指針」については、厚生労働省の以下の情報をご参照ください。https://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/i-kenkyu/rinri/0504sisin.html