夫の死に向かう恐怖や不安(スピリチュアルペイン)を感じた日々

遺族アンケート

85歳夫/看取った人・妻/神奈川県/2022年回答

昨年11月近くの医院での健診で極度の貧血が見つかり、即入院。翌々日には進行性胃がんが判明。噴門部にかかる進行性胃がんでステージ3と言われ、年齢的にも手術は無理と言われる。内視鏡検査もかなり苦痛があったようで、本人はその時悪いものは切除したと思い違いをした時期もあったが、とにかくこれ以上痛い思いをしたくない、自宅に帰りたいとしきりに訴えた。21日間の入院は貧血治療が主で、病院からは施設の紹介もあったが、自宅に帰り、訪問診療、看護、24時間介護サービスなど受けつつ、2か月と3日。だんだんに通過障害がひどくなり、昼夜を問わず呼ばれ通しだったが、いわゆる痛みは最後の一日だけ、酸素吸入も一日だけ。2021年2月18日本人に記入してもらっていた「私の希望表明書」の「してほしくないこと」は、かなり聞き入れることができたと思うし、医師にも見せることができ、個人的にはまずまずだったかと思っている。ただ夫の場合、進行性で本当に速く、判断するというより、待ったなしであったのでこのような結果になったともいえる。

療養期間が長い場合は、家族はもっと迷うに違いない。本人は「いやだなぁ」ともらす程度で、死に向かう恐怖や不安を言葉には出さなかったが、それらを感じ取ることは多かったように思うので、自宅療養であっても終末期の不安を取ることに、もっと踏みこんだ配慮ができるよう、協会としても努力していただきたい。

協会からのコメント

21日間の入院と2か月と3日の在宅介護、1日でも一緒にいたいと日々を過ごされたのですね。

終末期というステージの「死に向かう恐怖や不安」というスピリチュアルペイン注)についての対処は、本当に大切なこととして、今専門家の間でも大きな関心事になっています。「終末期の不安を取ることに、もっと踏みこんだ配慮ができるよう、協会としても努力していただきたい」とのご指摘を深く受け止め、今後の「小さな灯台」の課題にしていきたいと思います。
ただ、今の段階でも言えることがあります。日常の場である家にいて、妻がそばにいて、希望をかなえてくれたこと。声をかけたら返事があって、顔を見て、言葉を交わし抱きしめてくれる妻の存在があったこと。これらが、最高のケアであり幸福であり、恐怖や不安を和らげていたということを忘れないでください。奥様はどんな薬や治療法よりも素晴らしいケアをされたと思います。自信をもって、今の哀しみを包み込み乗り越えていただけますように。心から、ご冥福をお祈りしております。

編集部注:スピリチュアルペイン
スピリチュアルペインとは、死への恐怖、また、人生の意味や目的が失われてしまうことによる苦痛です。病気になって今までのように生活を送れなくなった時、人はこれからの生き方や、人生の意味や目的などについて疑問を抱くようになります。なぜ自分はこんな病気になってしまったのか、いっそ消えてしまいたいなどという気持ちになるのもやむを得ないことでしょう。
(日本医師会〔ドクタラーゼ〕「緩和の視点」より引用:https://www.med.or.jp/doctor-ase/vol11/11page_04.html
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