【情報BOX】―想いを未来へつなぐ―・遺贈寄付を知っていますか?
No.1 遺贈寄付と遺言書の作成
先日NHKでも特集されていましたが、最近「遺贈寄付」が注目されているそうです。「遺贈寄付」とは、具体的にはどのような寄付なのでしょうか?
◎「遺言」による寄付
「遺贈寄付」は、「遺言」によって寄付先を指定することによって行います。「遺言」とは、自ら遺産の分け方などについて書き残した文書です。
◎遺贈寄付は少額でもできる
「遺贈寄付」は、少額でももちろん可能です。「遺産を慈善団体に寄付する」と聞くと、いかにも巨額の資産をもったお金持ちがやるもののようなイメージがありますが、「遺贈寄付」に金額の決まりはありません。
寄付の意義は金額の大小ではなく、ご自身の人生観で寄付先を選び、支援する「気持ち」が大切です。それに、寄付してもらう側の団体等の気持ちとしては、どんな金額でもありがたいものですし、貴重な支援です。
◎寄付先の選び方
「遺贈寄付」の寄付先は、どのように決めたらよいでしょうか? ご自分の母校や、故郷の自治体など、ご自身の人生と「ゆかり」のあるところを選ぶ方も多いと思いますし、NPO法人や財団法人などによる「社会貢献活動」に関心があって、その支援のために寄付をしたいという方もいらっしゃると思います。
世の中には、非営利活動を行う組織は非常に多いです(内閣府のホームページによれば、NPO法人だけでも5万以上あります)ので、寄付先を絞るのは大変かもしれません。逆にいえば、数多くの様々な活動を調べていくことで意外な発見が得られたりもして、知的に楽しい側面もあると思います。最終的には自分の価値観で自由に決めればよいのですが、せっかく寄付するのですから、きちんと役立ててもらいたいものです。この意味でひとつの尺度になりそうなのが、各団体の寄付への対応姿勢、要するにこちらからの寄付の申し出に対し丁寧に対応してくれるかどうかです。一般的に大きな団体ほど“ファンドレイジング”(Fundraising/活動資金集めのこと)に前向きで、ある意味「積極的」に遺贈寄付を募っています。そこで、寄付したい組織等を見つけたら、決断の前に必ず一度は寄付について直接問い合わせて、どのような対応をしてもらえるか確認しましょう。優れた寄付先は、寄付のガイドラインや案内文書が用意されていたり、専用の相談窓口を設けていたりすることが多いです。
◎遺言書の作成方法は、主に2種類
「遺贈寄付」は「遺言」により行います。ではその「遺言」はどうやって作成するのでしょうか? 民法上、遺言には5種類の方式が定められています。といっても一般的には、そのうちの2種類によって遺言されることがほとんどです。ひとつは①すべて自分で手書きする「自筆証書遺言」、そしてもうひとつは②公証役場という場所に自ら出向いて、必要書類を準備したうえで作成してもらう「公正証書遺言」です。
「自筆証書遺言」の方が、手軽で費用もおさえられますが、自分で書いて自分で保管するものなので「なくしやすい」というデメリットもあります。「公正証書遺言」の方は、公的機関で作成される安心感は捨てがたいのですが、どうしても手間や費用がかさみます。
どちらの方式がよいのでしょうか? あなたがもし法律の専門家に相談したなら、ほぼ100%「公正証書遺言」をすすめられると思います。なぜなら法律家の目線で見ると、公正証書の方がいろいろな意味で「安全確実」だからです。とはいえ「自筆証書遺言で十分」ともいえます。自筆証書遺言は費用面で圧倒的にリーズナブルなうえ、すぐに作成に取り掛かれますし、「なくしやすい」のは確かですが、これはあらかじめ相続人に伝えておき、事前に寄付先ともよく連絡を取り合うことでカバーできます。さらに付け加えると、「法務局で自筆証書遺言を保管する制度」も始まりました。この制度を利用することでほぼ自筆のデメリットはカバーできます。保管制度については以下でもう少し詳しく説明します。
▼遺言の種類 メリットとデメリット
■自筆証書遺言 ○メリット…… 安い / すぐ作成に取り掛かれる △デメリット…… 形式ミスがひとつでもあると無効 / 紛失リスクがある / 発効には検認が必要(ただし法務局の保管制度を利用すれば検認は不要となる) ■公正証書遺言 ○メリット…… 法的に間違いないものができる / 紛失の心配がほぼない / 検認がいらない △デメリット…… 費用がかかる*) / 「今すぐつくりたい!」と思ったとしても公証役場に出向いて相談するなどあらかじめ手間や準備がいるから無理 / 証人2名が必要 *)【公正証書の作成費用について】公正証書遺言の作成費用は、公証人手数料令という政令で定められています。これにより「手数料」は最低16,000円(遺言加算11,000円+目的の価額が100万円以下の場合の手数料5,000円)となります。ただし相続人や受遺者の数と、遺産の価額、予備的遺言の有無などにより「手数料」は上がりますし、若干の「交付手数料」も足されるため、実際には最低でも20,000円以上かかるというべきでしょう。さらに、証人の手配を頼んだ場合の証人の日当(証人1名につき10,000円前後)や、弁護士等の専門家を経由した場合の報酬(20万円前後ですがかなり幅があります)も見込まれます。 |
◎法務局で自筆証書遺言を保管してくれる新制度が誕生
先ほど「自筆証書遺言」のデメリットとして、「なくしやすい」点だけを挙げましたが、実はもうひとつ「遺言書の検認が必要」という点が挙げられます。「検認」とは、家庭裁判所において、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。自筆証書等の遺言書の保管者またはこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知ったら「遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出」して「検認を請求しなければならない」とされています(「公正証書遺言」の場合は、検認は不要です)。つまり「自筆証書遺言」を発見した相続人等は、請求の書類を揃えたり、家庭裁判所に出向いたりといった時間と手間をかけて「検認」を受けなければならないので、この点も「自筆証書遺言」のデメリットと言われています(「検認」を受けなければ、遺言書に基づく不動産の名義変更や預貯金の払戻しなどの、いわゆる相続手続きはできません)。
こうした「自筆証書遺言」のデメリットを解消すべく、「自筆証書遺言書」とその画像データを法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」が令和2(2020)年7月10日に始まりました。この制度は全国312か所の法務局で利用することができます。遺言書を法務局で保管するため紛失の心配はまずありませんし、相続が開始した時の「検認」も不要になります。費用はかかるのですが「公正証書遺言」の作成とは比較にならないくらい安い(保管手数料として、3,900円分の収入印紙)です。もちろん、そもそも正確な遺言書の作成に加えて、法務局に予約を取って本人自らが出向かねばならないことや、申込書への記入、住民票の用意などが必要ですので「ものすごく簡単かと言われれば、そうとはいいきれない」制度ではあります。ただこれまで「遺言はしたいが公正証書にするほどではないな」のようにお考えだった方には、活用をおすすめできる制度だといえます。
自筆証書遺言の豆知識 「自筆証書遺言」の場合は、遺言書の全文、日付、氏名の自書と押印が必要です。ただし財産目録はパソコン等で作成(遺言書本文とは別の用紙として作成)したり、通帳や不動産登記簿の「コピー」を付ける方法でも可能になりました。なお、その場合は全ページ(両面コピーの場合は両面とも)に、遺言者本人の「氏名の自書と押印」が必要です。また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する時は、上記の他にも作成上の要件がありますので注意してください。 自筆証書遺言のチェックポイント ・遺言者本人が、遺言書の本文の「全て」を自書していますか? ・日付は、遺言書を作成した年月日ですか?(日付は正確に。「吉日」などはダメです)。 ・遺言者自身が署名していますか? ・ハンコが押してありますか?(実印がおすすめですが、認印でもOK)。 |