【情報BOX】高齢者と死―考えてみませんか? 増える高齢者の「孤独死」「孤立死」そして「自死」―高齢者支援のエキスパートからの投稿編
2025年4月18日に掲載した【情報BOX】「高齢者と死-考えてみませんか? 増える高齢者の『孤独死』『孤立死』そして『自死』」には、多くの反響が寄せられています。一般の方にとっても、介護・福祉関係者にとっても、関心の高いテーマであることがうかがえます。
なかでも、多様な高齢者支援の現場で長年の経験を積まれてきた以下の3名の方からの投稿は、ぜひ皆様にご紹介したいと考え【情報BOX】に掲載することにしました。
●ケアマネジャーの立場からお伝えしたい「孤独死」「鬱」「骨折」の予防(静岡県藤枝市ケアマネジャー 満島尚子様)
●「孤独・孤立しやすい独居高齢者を地域が気づく」つながりづくり(尼崎市社会福祉協議会中央支部 事務局長 庄本史様)
●遺族が前を向くために必要な「寛容な社会の温かさ」―片付け・遺品整理の現場を知る立場から―(アメイジー株式会社代表取締役 古川めぐみ様)
ケアマネジャーの立場からお伝えしたい「孤独死」「鬱」「骨折」の予防
静岡県藤枝市
ケアマネジャー 満島尚子
私は、静岡県藤枝市というところで、平成12年4月介護保険制度が始まった時から、ケアマネジャーをしており、いわば一番長くその職についているというわけです。
【情報BOX】「高齢者と死-考えてみませんか? 増える高齢者の『孤独死』『孤立死』そして『自死』」について、日頃支援を行っている観点から、「孤独死」、「孤立死」について投稿させてもらいます。今回は高齢者に焦点を当てて書かせていただきます。
1孤独死について
死は突然訪れることがあります。
「隣の部屋に家族がいるにもかかわらず、自宅の浴槽で、急性心不全なのか、眠ってしまっておぼれ死んだかわかりませんが亡くなっている」「要介護の妻の介護している健常者の夫が、妻がデイサービスに行っている間にトイレで亡くなり、デイサービスの職員が発見する」「一人暮らしの要介護者が、デイサービスのお迎えで自宅に行くと死亡していた」などということがよくあります。
突然亡くなるわけですから、孤独死の問題は防ぎようがありません。突然死を、特に一人暮らしの方に対して、早く発見されるように、ケアマネジャーとして心がけています。毎日誰かにつながっているということです。
これは、ケアマネジャーが毎日介護保険でサービスを入れれば解決できるわけではありません。介護保険には利用料金に限度があるからです。毎日誰かにつながっているということはどういうことでしょうか。
2鬱について
高齢になると、不安がいっぱいです。「お金が足りなのでは」「家族が看てくれない、来ない」「健康に心配がある」……高齢になればほとんどの人が、健康ではいられなくなります。だんだん体が弱くなり、死に向かっていくのが自然だからです。
ケアマネジャーとしての経験上、なりたくない病気はたくさんあります。脳梗塞、パーキンソン病、関節リウマチ、など身体能力を著しく失う病気。認知症など自分がわからない部分があることへの不安。急激に進行していく癌。このような病気になった時に、平静さを失わずにいられますか。
しかし、このようになった時こそ、若い時よりも努力して、身体を動かしたり、社会参加していかないと状態を維持すらできません。この精神状態の高い低いが、身体状態が向上するのか、低下して寝たきりになるのかにかかわってくるのです。ですから鬱は厄介です。
私たちも対応が難しく、よく「頑張って」って言っちゃいけないとかいうので、私が言ったことが悪化させてはいけないと思うと、躊躇してしまいます。また本人の気持ちを尊重すると、サービスにつながらず、短期間で身体状態が悪化してしまうということがあり、無力さを感じます。
私は健康で、意欲的に仕事も遊びも取り組んでいますが、そんな私が、病気等でそれらができなくなった時、口では頑張ると言っていますが、周りの人は「きっと鬱になるよ」と言っていますので自信がありません。
3.骨折について(この課題とは関係がありませんが、ぜひ皆様にお伝えしたいので)
圧迫骨折、大腿骨頸部骨折、上腕骨折など、私の感覚的にすごく多いです。手の骨折も甘くみてはいけません。その後拘縮が残り、不自由になることが多いからです。すごく痛いし、その後要介護になったり、介護度が高くなったりします。要介護になる原因の4位にあげられています。ちょっとした転倒で、骨折が起こるわけですが「転ぶ前に戻ることができれば、注意をするのに」と悔やまれます。
4.まとめ
それでは介護になっていない私たちはどのように生き、心がけたらよいでしょうか。
・孤独死について
人とつながっていくことを心がける。
誘われたら断らない。断ると次回誘ってくれなくなります。友達の友達は友達。先日私のいとこの旦那さんが亡くなり、一人暮らしになり、同じ都市に親戚もいないということで、その近所に住んでいる私の友達を紹介しました。緊急時にお互いに連絡を取り合うと決めたようです。
・鬱について
私はどんな病気になっても、環境が悪くなっても頑張ると今から毎日念じる(これが効くか、自信がありませんが)。
・骨折について
骨折の多くが転倒によるものです。転倒しない身体にする。転倒しても骨折しない骨にする。
皆様、自身の骨について、よく知り、ケアをしてください。骨折だけは防ぐことができるからです。
死の準備とともに、それまでをどう生きるかの準備が必要ですね。皆様にエールを送ります。
孤独・孤立しやすい独居高齢者を地域が気づく」つながりづくり
尼崎市社会福祉協議会中央支部
事務局長 庄本史
私の職場である、尼崎市社会福祉協議会中央支部では、「高齢者の孤独、孤立」をテーマに、協議体の事務局として取り組みを進めています。
1.「協議体」とは
介護保険法における「生活支援体制整備事業」は、高齢者を含む地域に住む人々を地域の人が支える「地域での支え合いの仕組み」を構築することが目的です。
その具体的な内容の一つに「協議体の設置」という内容が盛り込まれています。「協議体」は「地域で支える範囲」の中で、地域の特性に応じて構成され、地域住民、市町村、社会福祉協議会、介護事業所、地域包括支援センター、民生児童委員、地域の高齢者に関わる施設(機関)が集まり、
○地域に不足する介護サービスの創出
○サービスの担い手養成
○元気な高齢者が担い手として活動する場の確保
○地域の支援ニーズとサービス提供主体の活動のマッチング
など、対象の地域の特性に合わせ、活動を進めています。
尼崎市中央地区(中央支部管内)の協議体メンバーは、地区内の2か所の地域包括支援センターと居宅介護支援事業所、総合老人福祉センター、障害者の相談支援センター、市職員、社会福祉協議会中央支部、地区の民生児童委員協議会、住民代表(町会長やボランティア)です。(コアメンバーとして社会福祉協議会中央支部の生活支援コーディネーターと地域包括支援センターの職員が中心となって運営しています。)
2.協議体の取り組み
協議体設置当初は「住民同士の支え合い、助け合いのできる地域づくりを進める」をテーマに、取り組みの模索をしていました。
コロナ禍の令和2年、「気になる高齢者に対し、地域と事業者にどのような連携が必要か」という視点から「支え合う人づくり、場づくりを考える」をテーマに、さまざまな取り組みを行ってきました。
令和5年度から「引きこもりがちな独居高齢男性へのアプローチ」をテーマに「引きこもりがちな独居高齢男性の居場所のツール探し」の一つとして、「引きこもりがちな独居高齢者からニーズを聞きとる場」を実施しました。
具体的には、地域の自治会館にて、地域包括支援センターがピックアップした「近隣の引きこもりがちの独居高齢者」に個別にお声をかけ、当日も会場にエスコートし、軽くお茶とお菓子をつまみながら、少人数の対象者の「懐かしの昭和話」を協議体メンバー(支援者)が丁寧に時間をかけてお話を聞く会を実施しました。
この会では、支援者が「孤独、孤立」とみなしていた(あえてこのように表現します)独居高齢者の方は、負け惜しみではなく「本人は孤独、孤立しているつもりはない」生活を過ごしている、との話を積極的にされていました。生きている目的を漠然とでもおもちの方と多くお話することができました。
もちろん、健康情報、介護保険情報が欠如している方、病院受診、介護保険サービスの必要性がおありの方のも多く、地域での見守りが必要であると痛感いたしました。
「近隣の引きこもりがちの独居高齢者=孤独・孤立しやすい独居高齢者を地域が気づく」ためには、との展開が、次の協議体でテーマとなりました。
そこで、住み慣れた地域の集い場(コミュニティカフェ)の運営者(ボランティア)に「孤独・孤立しやすい高齢者への対応を考える」交流会を実施しました。
運営者の多くは、孤独・孤立しやすい高齢者が近隣におられる情報を把握しておられ、いわゆる外観からの「そっと見守り」を続けておられます。その先の支援の形を考え、私たちは小さな取り組みを重ねているところです。
今回の【情報BOX】にて、「孤独死、孤立死の8割は高齢者」の内容、高齢者の「喪失、孤独・孤立」の誘引する状況、状態、そして「生きる支援」の根幹である「ACP」のアプローチは、協議体の取り組みに重なるものだと痛感しています。今年度の取り組みの視点として、メンバーと共有してまいります。
遺族が前を向くために必要な「寛容な社会の温かさ」
―片付け・遺品整理の現場を知る立場から―
アメイジー株式会社
代表取締役 古川めぐみ
※アメイジー株式会社は生前整理・遺品整理・片付けサービス等の事業を行っています
今年91歳になる私の母は高齢の父と二人暮らし。母自身に認知機能が衰えてきている自覚があります。それを知ってか知らずか「生きていくってすごい事だ」と最近言葉にするようになりました
「天命を全うする」
「与えられた命を最後まで生きる」
「生きられなかった人の分も生き抜く」
これらの言葉が私の頭をよぎります。実際に自分で実現するのには困難で難解な事なのでしょう。でも難解な事だからこそ、「死に様」を「生き様」と捉える必要があるように思えます。
私自身は片付けの仕事をしている関係で、今回の【情報BOX】にもあるような、「自死」や「孤独死」「孤立死」のお仕事もあります。
気落ちしているご家族ご親族の方に、片付け作業の際には、大袈裟にならない声がけも行います。近親者の「普通とは違う亡くなり方」に責任を感じたり、罪悪感を背負ってしまわないように、ご家族が肩の荷を下ろして、明日から少しでも笑顔で過ごせるように心がけています。
今後の多死社会では、私たちのまわりでも起きる事が想定されます。だからこそ偏見や差別の目で見ることなく、正しい知識と対応が必要になります。
90歳を超えて、やっと自分自身の衰えを自覚するようになったかのような母。私は食事や運動などを促しながら「最後まで頑張って生きないとね」と伝えています。
本人を孤立させず、生きる支援も進めるように、こうした現状を知ってもらう事、そして、残された家族が前を向いて生き抜いていくためのサポートや、寛容な社会の温かさが必要になってくると、生き辛い世の中だからこその必要性を感じています。