【情報BOX】―想いを未来へつなぐ― ・遺贈寄付を知っていますか?
No.3 遺贈寄付をする上で気を付けておきたいこと
「遺贈寄付を知っていますか?」のNo.1とNo.2を読んで、遺贈寄付とその手続きについて何となくイメージしていただけたかと思います。この最終回では「さあ、遺贈寄付をしよう!」と決めた時に気を付けておきたいことを解説します。
◎遺留分にも注意しましょう
ところで、もしあなた自身にご家族(推定相続人)がいるにもかかわらず、自分の持っている「すべての財産」を特定の団体に遺贈する、と決めたらどうなるでしょうか? おそらく相続人からは不満が出ると思います。さすがにこれは極端な例かもしれませんが、「遺贈寄付」の金額を決める場合は念のため「遺留分」にも配慮してください。
そもそも相続人には、遺産の割合についていわば「最低限の分け前」が法律で決まっていて、これを「遺留分」といいます。「遺留分」と似た言葉に「法定相続分」があります。「法定相続分」も、相続人がどれくらいの割合で相続すべきかを表す用語です。ところが遺言で本人が「法定相続分とは違う割合」を指定した場合は、原則として遺言が優先されます。
また、遺言によらずに、遺産分割協議を経た「相続人全員の同意」があれば、やはり「法定相続分とは違う割合」で相続内容を決めることができます。つまり「法定相続分」は「遺言」や「遺産分割協議」により(原則として)排除することができます。これに対して「遺留分」の方は排除できません。相続人の最低限の権利を守るためのルールなので、「遺言」によっても、「遺産分割協議」によっても、「遺留分」はそれ以下に減らすことができないのです。
■法定相続分 → 「遺言」や「遺産分割協議」で変更することができる ■遺留分 → 相続人の最低限のラインなので、原則として変更できない・ただし、「遺留分」を主張するかどうかは相続人の自由ですので、遺留分権利者が(自分に権利があるにもかかわらず)もらわなくてよい、と考えれば行使しないことができます。 |
▼遺留分はどれくらい?
では、最低限の分け前である「遺留分」は、相続財産に対してどれくらいの割合なのでしょうか? 単純にいえば「遺留分」は「基礎財産(=被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額)」の1/2(ただし、直系尊属のみが相続人である場合は1/3)です。なお「“被”相続人(=つまり亡くなった方)」の「兄弟姉妹」には遺留分はありません。
豆知識 遺留分のポイント(民法1042条等) ・基礎財産の半分(1/2)は遺留分である ・直系尊属のみが相続人である場合は1/3である ・兄弟姉妹には遺留分はない |
ちなみに、初心者向けのイメージとしては上記のように「遺留分は法定相続分の半分(直系尊属のみが相続人である場合は1/3)」と思っていただいても間違いではないのですが、生前贈与があった場合の調整など、遺留分の計算には論点が多いため、このイメージだけで実際に金額を計算するのは難しいです。ここはあくまでも、大まかな理解を優先させた表現であることに注意してください。
豆知識 生前贈与等があると遺留分侵害額*1)は調整される ・遺留分の算定の基礎となる財産は、積極財産*2)から債務を引き、贈与がある場合はその額を加えたものです ・贈与は相続開始前の1年間(相続人に対する贈与は10年間)にしたものに限り基礎財産に加えます(ただし当事者双方が「遺留分権利者」に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年間よりも前のものも含みます)(民法1044条) ・「遺留分権利者」が受けた贈与等は、遺留分侵害額*1)の請求額から控除されます(民法1046条) (実際の遺留分の計算には論点が多いため、具体的な事案に当てはめるときは早合点しないように注意してください。) (注釈)*1)遺留分侵害額:遺留分を侵害された者(遺留分権利者)が、他の贈与又は遺贈を受けた者に対して請求しうる、清算金(侵害額に相当する金銭)の額のこと。*2)積極財産:現預金、株式や有価証券、不動産をはじめとする、経済的に価値のある財産、いわゆるプラスの財産のこと。反対に、借入金などは消極財産といわれる。 |
◎法人に遺贈寄付したら、相続税はかかる?
以上、「遺贈寄付」は遺言によって行うことと、遺言の具体的作成方法、遺贈の趣旨や遺留分への配慮というポイントを説明してきましたが、最後に遺贈寄付に「相続税」がかかるのかどうかについて検討しておきましょう。
◎相続税とはなにか?
答えを言う前に、そもそも「相続税」とは何か? を確認します。簡単にいうと相続税は「遺産に課される税金」のことであり、故人の「財産」を受け取った人(相続人や受遺者)がこれを納めることになります。ところで、この場合の「遺産」つまり「相続税の対象となる財産」の概念は、少し複雑です。
▼相続税の対象となる財産とは
「相続税の対象となる財産」は、故人が死亡時に所有していた財産に「死亡時3年以内に贈与された財産」と「相続時精算課税制度(原則として60歳以上の父母または祖父母などから、20歳以上の子または孫などに対して財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度)の適用を受ける財産」、それに「みなし相続財産(民法上の相続財産ではないが、生命保険金等と死亡退職金等のように、相続税の計算をする際は相続財産とみなして課税されるもの)」を足し算したものです。
ただし、相続をしても税法上のルールによって「相続税」がかかる場合と、かからない場合とがあります。たとえば遺産が「基礎控除額」を超えなければ、相続税はかかりません。基礎控除額とは「3000万円+600万円×法定相続人の数」です(もし「相続放棄」をする人がいても、この場合の「法定相続人」の数には含めて計算されます)。
豆知識 相続税の対象となる財産 ・故人が死亡時に所有していた財産 ・死亡時3年以内に贈与された財産 ・相続時精算課税制度(原則として60歳以上の父母または祖父母などから、20歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度)の適用を受ける財産 ・みなし相続財産(民法上の相続財産ではないものの、生命保険金等と死亡退職金等のように、相続税の計算をする際は相続財産とみなして課税される財産) →ただし、基礎控除額「3000万円+600万円×法定相続人の数」があるので、相続をしても相続税がかからない場合があります。「課税遺産総額」は遺産からいろいろと控除できるものを差し引いた、残りの部分ということになります。 |
▼債務等は遺産から差し引くことができる
相続税の計算において「非課税財産」、「被相続人が死亡したときにあった債務」、「葬式費用」は、遺産総額から差し引くことができます。尚、“被”相続人に課される税金で被相続人の死亡後相続人などが納付または徴収されることになった所得税などの税金については、被相続人が死亡したときに確定していないもの(相続時精算課税適用者の死亡によりその相続人が承継した相続税の納税に係る義務を除きます)であっても、債務として遺産総額から差し引くことができます。
豆知識 葬式費用は遺産から差し引くことができるが、お墓の未払代金は差し引けない 葬式費用は遺産総額から差し引くことができるのですが、被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など非課税財産に関する債務は、遺産総額から差し引くことはできません。 |
◎法人には原則として相続税はかからない
相続税がだいたいどんなものかわかったところで本題に戻りますが、結局「遺贈寄付」をしたら「相続税」は課せられるのでしょうか? 答えは、法人に対する遺言による寄付には(原則として)法人税はかかりません。「遺贈寄付」の多くが社会貢献活動をする団体等(法人)に対してなされるものだとすれば、相続税の問題はほぼ考えなくてよさそうです。「相続税」は個人(つまり普通の人間)が相続や遺贈により財産を取得した場合に課される税金だからです。そのため法人が受けた寄付金には原則として相続税が課税されないのです。
豆知識 法人は原則として相続税を課せられない→例外あり! 法人には相続税が課せられないですが、例外としては、 ①人格のない社団又は財団*3) ②持分の定めのない法人*4)(持分の定めのある法人で持分を有する者がないものを含む。) ③特定の一般社団法人・一般財団法人 があります。 上記の者には相続税が課せられることがあり得ます。(相続税法第66条等) (注釈)*3)人格のない社団又は財団:法人格は有していないけれども、一定の目的を達成するために活動する団体又は財産の集合体で、具体的には自治会やPTA等が挙げられる。*4)持分の定めのない法人:その社員等が、出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができない法人や、行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人のこと。「持分」とは要するに法人に出資をした人が、それを払い戻してもらったり、分配金をもらったりできる財産的な請求権のことであり、そのようなしくみを持たない法人のこと。 |
ご注意:本文中、税金の説明や遺留分の計算、法律の定義に関しての説明については、わかりやすさを優先した表現を用いており、あくまでも一般論の説明及び個人の一意見として書いています。このため具体的な事案には必ずしもあてはまらない点、正確ではない点、多数の例外を含む点があることをご了承ください。
◎まとめ
以上、「遺贈寄付」について思いつく限りの要点をまとめてみました。自分が亡くなった時に、わずかでも財産が社会貢献に使ってもらえるかと思うと、なんだか自分の人生に新しい意義を感じられそうです。寄付先を考えるだけでも楽しめそうですね。一方で、遺言の作成方法や、遺言執行者の指定などはやはりハードルになる部分であり、悩みどころです。また、「相続税」の例外や「遺留分」の具体的計算などについては、ここでは正確に説明しきれないような複雑な論点も多々あります。こうした点についても、つまずいた時に相談に乗ってくれる窓口が寄付先側にあれば、寄付はさらに身近になりそうです。
▼相談先について
遺贈寄付の専門家や専門の相談窓口というと、寄付先の受付窓口が中心ですが、他にも、法律や法務の専門家(弁護士、司法書士、行政書士等)や、相続の相談を受け付けている各種専門家(税理士、会計士、ファイナンシャルプランナー等)であれば、遺贈の一種である遺贈寄付についても、問題なく相談に乗ってくれるはずです。
(尊厳死協会でも遺贈寄付をご案内しています) ・公益財団法人 日本尊厳死協会ホームページより「遺産、相続財産のご寄付」ページ https://songenshi-kyokai.or.jp/donation/bequest (日本財団遺贈寄付サポートセンターには、遺贈寄付の詳しい案内が載っています) ・日本財団遺贈寄付サポートセンターhttps://izo-kifu.jp/ |