【情報BOX】尊厳死を希望する人の代託者になるあなたへ−親の“老い”と向き合う時に役立つ《老い知識》のすすめ No4 老化による聴覚・聴力の変化とは? その1
年齢を重ねると、「会話が聞き取りにくい」「呼ばれているのに気付かない」「テレビの音が聞こえない」などといった「聴覚・聴力の変化(衰え)」を感じることがあります。老化によって、聴覚・聴力になぜ、また、どのような変化が起こるのでしょうか。
今回は、老化による変化の一つである「聴覚・聴力の変化」についてお伝えします。
◎老化と聴覚・聴力の衰え
▼加齢とともに起こる「加齢性難聴」とは?
聴覚・聴力の衰えは、実は40代ごろからすでに始まっているといわれています。まず高い音が聞き取りにくくなり、50代になると高い音に加えて低い音も聞き取りにくくなります。
そのような、加齢以外に特別な原因がなく、両方の耳が聞こえにくくなる難聴を「加齢性難聴」といいます。ある調査によると、その割合は60代前半で5〜10人に1人、後半では3人に1人、75歳以上では約7割以上と報告されています1)。
加齢性難聴の原因は、鼓膜の奥にある「内耳」の働きの低下です(図)。内耳にある「」という部分(鼓膜から伝わる音の振動を電気信号に変えて脳に送るところ)の「有毛細胞」が減るためです。この細胞は一度壊れると再生しないため、治りにくいことが特徴です。
▼加齢性難聴の特徴は?
加齢性難聴には、次のような特徴があります。
- 高い音から聞こえなくなる
- 小さい音は聞こえにくく、大きい音はよりうるさく聞こえる
- 声がぼやけて、割れた、歪んだ音に聞こえる
- 早口の声がわかりにくい
例えば、特に電話の呼び出し音や体温計の音などといった高い音が聞こえにくくなります。耳元で大きな声で呼びかけられてびっくりすることもあるかもしれません。小さな声や微妙な発音、早口が聞き取りにくくなることも起きてきます。
また、症状によって、ささやき声が聞こえにくい場合は軽度難聴、普通の会話が聞こえにくい場合は中等度難聴、大きな声でも聞こえにくい場合は高度難聴と、程度があります。
聴覚・聴力は数十年をかけて緩やかに衰えるため、言葉の聞き取りも少しずつ落ちていきます。そのため、自覚があまりなく、本人も家族も衰えに気づきにくいことも特徴です。
◎聴覚・聴力の衰えによる影響
では、聴覚・聴力が衰えてくると、日常生活にどのような影響が出てくるのでしょうか。
夫の両親と同居しているある女性に、こんな話を聞いたことがあります。
「義父はテレビが大好きで、日中はずっと居間でテレビを付けっぱなしにしています。それはいいのですが、テレビのボリュームがすごく大きくて、家中に響き渡るほどです。私も日中家にいるので、毎日、テレビの音がうるさくて耐えられません。でも、義父はテレビの音が大きいとは思っていなくて。私も言い出せず、このままでは関係性まで悪くなりそうです」
こうした例は、聴覚・聴力の衰えが、本人が気付かないところで家族との共同生活を困難にしている一例といえます。
また、言葉が聞き取りにくく会話が理解できないことが嵩じると、周りとのコミュニケーションがうまく取れなくなり、家庭内、または趣味や仕事の場などでも孤立や不安を感じ、次第に物事に消極的になるなど心理的な影響が出てくるかもしれません。先の例のように思わぬところで関係性を悪化させてしまい、人間関係に影響が出てくる可能性もあります。
さらに、負い目を感じ社会との交流が少なくなったり、音による脳への刺激が減ることによって、認知症のリスクが高まるという研究報告もあります2)。
聞こえにくいことによって十分注意が払えず外出先で事故などに遭いやすい、災害を知らせる警報などに気づかないなど、身の危険が高まることも考えられます。
私の母は、以前、「最近、話し声がよく聞き取れなくて、家族の会話の早さについていけないことがあってね。時々わかったふりをして肯いたり、曖昧な返事をしたりすることがあるのよ」と話していました。その後、社交的だった母が引きこもりがちになってしまったことには、もしかしたら難聴も関係していたのかもしれないと思います。
◎参考資料
- 内田育恵ほか. 全国高齢難聴者数推計と10年後の年齢別難聴発症率.日本老年医学会雑誌,
49(2):222-227, 2012. - Livingston G., et al. Demantia preveition,intervention,and care. Lancet,390(10113):2673-2734,2017.