リビング・ウイルをかなえるために
「リビング・ウイルをかなえるために」という共通のテーマで、以下の3つの「看取りのエピソード」をご紹介します。
●リビング・ウイルを持っていて良かった!
【遺族アンケート】(96歳母/看取った人・娘/神奈川県/2023年回答)
リビング・ウイルを持っていることで、施設側にもスムーズに受け入れられ、自然体で迎えることができました。点滴をするか否か……施設か病院か……。悩む場面がないわけではなかったのですが、本人の意志があり、家族も判断を間違えず、苦しむことなく穏やかに旅立てたことが、とても良かったと思いました。私も終身会員として入会しており、穏やかな命の終い方ができたらと願っています。ありがとうございました。
●チューブでつながれるのは嫌だから尊厳死協会に入っていると知らされた
【遺族アンケート】(96歳母/看取った人・娘/兵庫県/2023年回答)
父が亡くなった時に、母から「チューブ等でつながれたりするのは嫌だ」と聞いていましたし、尊厳死協会に入っていることも知らされました。病院の医師にも受け入れていただき、最後は眠るように亡くなりました。いろいろお世話になりありがとうございました。
●本人が「終わりにしたい」とはっきり伝えた
【遺族アンケート】(82歳父/2023年回答)
ステージ4とわかってからも、抗がん剤治療を医師から勧められ、多分父本人は迷いながら治療を始めたと思います。結局、副作用が重く、コロナ禍での入院生活のつらさもあり、治療を中止し、自宅で過ごすこととなりました。入院先の病院でもリビング・ウイルをお伝えしていましたが、退院時、リビング・ウイルに沿った終末期を過ごすためにはどうしたらよいか、何の案内、助言もいただけなかったので、家族で情報を集め、在宅医療のクリニックとつながることができました。自宅療養になってからは、ケアマネジャー、訪問看護師さんに恵まれ、本人のシナリオ通りの最後が迎えられたと思っています。本人が「終わりにしたい」とはっきり、一語ずつ伝えた時、医師は「よくがんばりましたね。お薬使います。楽になると思いますよ」と言ってくださり、本人も安心した様子でした。「最後は家族にありがとうと言いたい」と言っていたのですが、9月9日サンキューの日に、家族みんなに見守られながら息を引き取り、これも父の意思なのでは……と勝手に思っています。
父の看護をしている中で、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は病状や病気の進行具合によって変化することを実感しました。父は点滴も希望していなかったのですが、最後は水分の点滴を続けたいと言いました。その時も医師や看護師が助言してくれたり、父の意思を第一に尊重してくださいました。ひと月半の療養(?)生活でしたが、関わってくださった方には本当に感謝しています。
自宅で最期……と希望してもなかなかそうはいかないことも多いと思います。父は幸せだと思います。
【協会からのコメント】
「エンドオブライフ・ケア」という言葉も、まだまだ社会一般的には馴染みがありません。
人生の最終段階をどう過ごすか、また最期の時のケアをどこまで、どのように選択したら良いのか、ご家族の迷いは「正解のない海にただよう小舟のよう」とたとえられた方がいらっしゃいます。
「生も死も当たり前に在る事」と、わかってはいても、ご家族にとってはいつでも「ある日突然の出来事」なのです。延命治療をしない選択をすれば、「命を絶つことに手を下してしまった感」に苦しみ、結局、判断を先延ばしにしてしまう。「一瞬でも長く生きていてほしい」と希望すると、苦悩が長引くことに……。
「小さな灯台」で多くの「看取りのエピソード」をご紹介していると、救いの一手は「本人の意思が明確であること」だと思い至ります。あわせて、その「本人の意思の尊重」に、ご家族、医療・ケアスタッフが「意向を活かす豊富な対応策」を知っているか? チャレンジできる社会的環境が整っているかどうか? にかかっています。
たとえ治療を断念した日々でも、寄り添い支えることで患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を向上させる手段の開発は、今いろいろな分野で進められています。(一例をあげると、2002年5月公布の身体障碍者補助犬法に基づく「社会福祉法人 日本介助犬協会」の活動https://www.youtube.com/watch?v=ax97xm69rcw 等々)。
看取りの形は千差万別。尊厳死をかなえるというプロセスも、正解はありません。ひとりひとり違っていていいのです。とはいえ、たとえ「リビング・ウイルカード」を示しても、それを「知らない、尊重する方法がわからない」という医療・ケアスタッフとの出会いだったとしたら、意味をなさなくなります。
だからこそ、「小さな灯台」は「リビング・ウイルを尊重する」ことがどのようなものなのか、会員の皆様の体験を紹介し続けてまいります。
編集部注)
尊厳死協会のリビング・ウイルは、以下の3箇条を、署名した本人の意思として表明しています。
- 私に死が迫っている場合や、意識のない状態が長く続いた場合は、死期を引き延ばすためだけの医療措置は希望しません
- ただし私の心や身体の苦痛を和らげるための緩和ケアは、医療用麻薬などの使用を含めて充分に行ってください。
- 以上の2点を私の代諾者や医療・ケアに関わる関係者は繰り返し話し合い、希望をかなえてほしい。