助産師・菅沼ひろ子様より、小さな灯台に寄せてメッセージをいただきました

助産師という立場から考える「尊厳死」

私の職業は助産師です。私(72歳)の長い助産師人生を通しての『看取りのエピソード』を語り継ぐことで応援メッセージとさせていただきます。

この助産師という職業と「尊厳死」とには関係がないのでは、と多くの方は思われるでしょう。確かに私たちの周辺(産科医療)においても「尊厳死」という用語は、ほとんど聞くことはありません。しかしながら、この「尊厳死」の定義を「自然な死、延命治療をしない死」とするならば、関係ありなのです。無脳児という脳の大部分が欠損した赤ちゃんや、先天的な何らかの障害によって生存が困難な赤ちゃんの出産がその例です。

私には「無脳児」と聞いて思い出される映像があります。それは生まれたばかりの我が子を優しく見つめ、母乳を含ませている女性の姿です。ろうそくのわずかな灯りでうっすら見える赤ちゃんには脳がありません。無脳児です。この女性は、妊娠中に無脳児の診断を受けた後、自分の意思で満期まで過ごし、自然な陣痛を待って普通に出産するという選択をしたのです。ほほ笑みを浮かべた母親の顔はとても美しいものでした。そして、生まれて3時間の後に、母親の胸に抱かれたまま、この赤ちゃんは静かに旅立ったのです。医学的介入のない、母親の意思を尊重した自然出産であり、3時間という短い生命の終焉でした。

赤ちゃんは短い命でしたが、母親の意思が尊重され、我が子を胸に抱くことができたことは、彼女の納得と今後の生きる力につながるだろうと思います。

「小さな灯台」が大切にしている「本人の意思の尊重」と「看取る人と看取られる人の納得や満足」……看取られる人の年齢にかかわらず、これが命の尊厳なのだと思います。

「小さな灯台」の理念が多くの人に伝わることを祈念いたします。



助産師
菅沼 ひろ子