【情報BOX】尊厳死を希望する人の代託者になるあなたへ−親の“老い”と向き合う時に役立つ《老い知識》のすすめ No.3老化による睡眠の変化とは?

年齢を重ねると、老化による身体の変化が現れてきます1)。白髪の増加やシワ・シミ・たるみなど見た目の変化、体力の低下、老眼、難聴などがよくみられますが、「朝起きるのが早くなる」「早く眠くなる」「夜中にトイレに起きる」「布団に入ってもなかなか寝つけない」など、睡眠に関する変化に悩む声も聞かれるようになります。

なぜ、老化によって睡眠にこのような変化が起きてくるのでしょうか。

◎高齢者の睡眠の特徴とは?
▼早寝早起きに
高齢者は、若い頃に比べて早寝早起きになります。このことは、体内時計の加齢変化によって睡眠にかかわる体温やホルモン分泌などの生体機能リズムが早い時間にずれるためです2)。「春眠暁を覚えず」は若い証拠、午前3〜4時に目覚めてしまい困る人が増えます。また、生活時間帯がずれてしまうことは、若い世代との同居が難しくなる一因にもなり得ます。

▼目が覚めやすく、浅い眠りに
高齢者は深い眠りであるノンレム睡眠の時間が減り、浅いレム睡眠の時間が増えます(図)2)。そのため、基本的に眠りを持続することが難しくなります。尿意やちょっとした物音で目が覚めやすく、眠りが浅くなります。

(榎本みのり. 高齢者の睡眠. e-ヘルスネット(厚生労働省).より)

▼睡眠時間が短くなる
実際の睡眠時間は加齢に伴って減少し、70歳代では平均して約6時間まで短縮するといわれています3)。高齢者の睡眠は、実際の睡眠時間は短くなるのに、眠れないままうとうとと寝床に入っている時間は長くなることが特徴です。必要以上に眠ろうとすることで悩まされ睡眠満足度が低くなり、焦りと緊張から不眠に陥ると指摘する医師もいます3)。
早寝早起きも、睡眠力が落ちるのも、日常生活に支障がなければ自然な老化現象です。

◎1日の過ごし方に工夫を
対処として、眠くなった時だけ寝床に入る、眠くない時は寝床から出る、などと寝床に入っている時間を調整することか効果的です。また、眠れなくても毎朝同じ時間に起きる、昼寝をしない、など昼間の過ごし方の工夫も挙げられます。

さらに、夜中や早朝に目覚めてしまった時、することを用意しておくのも一案です。例えば、朝早く目覚めたら早朝散歩に行くのもよいでしょう。早寝早起きを生かして早朝勤務のアルバイトをしてみるなど、その時間を自分にとってプラスに使うことです。ある病院では、ベテラン嘱託看護補助者の勤務時間を本人の希望を考慮して午前6時30分〜と前倒しし、お互いにプラスになっている例もあります4)。

他にも、不眠を加速させる運動不足、カフェインの取り過ぎや喫煙、寝酒には気をつけましょう。睡眠を深くしようと寝る前に飲酒する人がいますが、寝酒は深い睡眠を減らし飲酒後3〜4時間で覚醒する生理的現象をもたらすため、おすすめしません。

◎まとめ:眠れないことに一喜一憂しない
海外のあるホテルには、深夜目覚めた顧客が気軽にお茶をしながら語り合えるサービスサロンがありました。高齢者施設で深夜デイサービスを始めたらとても好評だった、という話も耳にしたことがあります。日本の高齢者施設などでも、深夜目が覚めてしまう高齢者に眠剤などの医療的な対処だけでなく、「深夜カフェ」のような語り合い︎不安を和らげられる場を設けるなど環境面での対処も考えてみてもよいのではないでしょうか。

また、「75歳後期高齢期仲間のグループラインで、午前3時でも、4時でも会話OK、起きている人が応答するというルールをつくり、とても助けられた」というお話を聞いたことがあります。個人間のちょっとした助け合いで工夫できることもあるかもしれません。

加齢によって睡眠時間は短くなること、若い頃のように眠れなくなるのは誰にでも起こる老化現象なのだと理解しましょう。そのうえで、8時間睡眠を目標にせず、眠れないことに一喜一憂して生活スタイルを変えようとするのではなく、生理現象に合わせて前向きに工夫していく方法もあるのではないでしょうか。みんながいずれ辿る道、周囲も高齢者の睡眠の変化について正しく理解しサポートしていきたいものです。

◎参考文献
1)長寿科学振興財団. 高齢者の身体的特徴.健康長寿ネット, 2022. https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenkou-undou/shintaiteki-tokucho.html
2)榎本みのり. 高齢者の睡眠. e-ヘルスネット(厚生労働省).
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html
3)三島和夫. 高齢者の睡眠と睡眠障害. 保健医療科学, 64(1):27-32, 2015.
4)中澤妙美. 安全で健康に働き続けられる夜勤体制の整備. 看護, 74(14):92-98, 2022.