訪問医は尊厳死協会のことを知らず
【遺族アンケート】
73歳夫/看取った人・妻/愛知県/2023年回答
主人は6年前に脳出血で倒れ、重度の左半身マヒで車椅子生活となり、施設に入居していました。3か月前に肺炎で大学病院へ緊急入院して、検査の結果、嚥下能力がほぼない状態で、もって3か月と言われました。入院時にリビング・ウイルカードを示し、医師の賛同も得られました。経鼻チューブ栄養か中心静脈栄養か点滴のみかを提案され、本人も家族も点滴を選び、施設も了解してくれ退院しました。
が、施設の訪問医は、今までのように会話して元気そうに見える主人に、経鼻チューブ栄養を強く勧めてきました。
施設には入居時にリビング・ウイルのカードを提示してありましたが、医師には伝わっておらず、尊厳死協会のことも知らず、ホームページを見て初めて知ったと言われました。その後何度も医師とやりとりがあった末、徐々に弱っていく主人を見て暗黙の了解となりました。
その間、水分を口から欲しがる主人にどう接すればよいのかわからず、2回尊厳死協会の医療相談を利用しました。2回とも同じ方で、こちらの状況を親身になって聞いていただき、とても良いアドバイスをもらえました。
それは唇と歯茎の間に水分を数滴たらしてあげるという方法で、好きなコーラをためしたら喜び、5回あげることができました。満足そうでした。
そして最後は穏やかに息を引き取りました。本当に心から感謝しております。ありがとうございました。この経験をふまえ、広く尊厳死協会の存在を知人・友人に知らせたいと思います。
【協会からのコメント】
尊厳死協会の存在、リビング・ウイルのことを医療者、特に医師が知らない事実がここにもありました。そのような医師に出会った場合の苦悩が伝わる「看取りのエピソード」です。
リビング・ウイルを理解してくれる医師(尊厳死協会のリビング・ウイル受容協力医師など)もいますが、リビング・ウイルや尊厳死協会のことを知らず「看取りに向き合う考え方」が違う医師もまだたくさんいます。
さまざまな終末期医療のガイドラインには「患者自身の生き方・逝き方選択を尊重しましょう」と書いてありますが、実際に直面した時の選択と決断は誰がするのか? 医師が患者のリビング・ウイルと尊厳死協会に入会しているという意味を、どの程度重く受け止めてくれるものか? 不明確です。
今後、家族がいなくなったり、いても頼れなかったりする高齢者は、誰に、自分に代わって「自然な死を希望する」と「主張」してもらえば良いのでしょうか?
今、この「決断の壁」に多くの人が直面しているのではないでしょうか?
もう一つ……今回の事例にように、経鼻チューブ栄養か中心静脈栄養か点滴かの三者択一を迫られるケースがよくあります。どれを選択されても間違いではありません。正解のない世界だからこそ、患者となる私たち一人ひとりの「意思ある選択」が必要です。さらに看取り期には「治療はできなくてもケアはできる」といわれます。「唇と歯茎の間に水分を数滴たらしてあげる」のはまさにケアであり、治療の選択肢以外にも「優しいケアという選択」もあるのだということも、多くの人に知ってほしいと思います。
とても大事な課題を照らす投稿をしていただきました。ありがとうございました。くれぐれもご自愛ください。