【情報BOX】人工呼吸器は取り外すことができるの?  できないの?

人工呼吸器は一度装着すると外せない、外すと警察沙汰になる……そう思っている人は多いはずです。「看取りのエピソード」の中にも、医師に「人工呼吸器を取り外すと警察に引っ張られる」と言われて、リビング・ウイルが役に立たなかったという投稿があります。本当に一度装着した人工呼吸器は外せないのでしょうか?

答えはNOです。

患者本人の意思が明確であって、家族が同意している場合には、プロセスをふめば治療を中止することも選択肢としてあります。

◎そもそもの疑問

そもそも、治療を始めないことは良くて、治療を中止することはダメというのはおかしいのではないか? と素朴な疑問をもつ人も多いと思います。家族が急に倒れて「人工呼吸器を装着しますか? 装着しなければ死に至ります」……気が動転している時にそう言われれば「お願いします」と言ってしまうのは無理のないことです。また、搬送された時に本人の意思確認ができる状態になく、家族とも連絡がとれなかったため、医師は処置をするしかなかったというケースも考えられます。いずれにしても、その後「やっぱりこのままの状態の生存は本人の希望ではなかった」と後悔し、意向が変わっても「もう付けてしまったのだから後戻りできません」というのは納得し難いところです。

◎延命処置中止が可能という根拠は?

その根拠となっているのは主に下記のガイドラインです。ここには、いわゆる終末期の状況に至った際の、医療スタッフが考える道筋が示されています。これらのガイドラインに共通するのは「患者本人の意思が尊重される」ことです。

1「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として」(一般社団法人日本老年医学会,2012)
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/pdf/jgs_ahn_gl_2012.pdf

2「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン―3学会からの提言」
(日本救急医学会・日本集中治療医学会・日本循環器学会,2014.11.4)
https://www.jaam.jp/info/2014/pdf/info-20141104_02_01_02.pdf

3「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
(厚生労働省,2018改定)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf

◎大切なのはプロセスをふむこと

 家族が「人工呼吸器を取り外してください」と言ったからといって、すぐに「そうですか」というわけにはいきません。一定のプロセスが必要です。

  1. 医療チームの総意であること
    ガイドラインには「医療チームの総意であることが重要である」と書かれています。担当医師一人の判断で医療の中止はできません。医療チームだけでなく、その施設の倫理委員会などで検討することもすすめられています。
  1. 医師から情報提供と説明がきちんとなされること
  2. 何度も繰り返し家族に説明し、意思を確認すること本人や家族の気持ちは揺れ動くものなので、医療チームと、本人・家族が何度も繰り返し話し合い、合意を形成するというプロセスがとても大事です。

◎現実には人工呼吸器を取り外さない医師がいるのはなぜ?

  1. 医療の使命は人の命を救うこと。医師の倫理に外れることはできない。
  2. 心情的につらい人工呼吸器を止める行為で人が死ぬ……人の心情としてつらいことです。そういう意味では「治療を始めないこと」と「治療を中止すること」の間に心情的には大きな違いがあるといえます。
  3. 法的根拠がない
    日本には海外のようにリビング・ウイルを規定した法律がありません。つまり、人工呼吸器を取り外すことができるとはいっても、そこに法的根拠はありません。学会等のガイドラインが先行するような形になっているため、医療者が慎重にならざるを得ないのも理解できます。

ガイドラインはあってもまだ法律はなく、治療中止の要件も定まっていない中で、この課題は過渡期の状況です。現実的には難色を示す医療機関も多いでしょう。

それでも、何か手立てはないか病院の倫理委員会などに相談してみることも大事だと思います。

◎time limited trial(お試し期間)という考え方
最近ではtime limited trial(お試し期間)という考え方の導入を積極的に考えている医師も出てきています。
time limited trialとは、集中治療を含む治療を一定の期間行ってみて、その効果を見極める手法、つまり、やってみて、奏功しなければ中止できるというお試し期間です。こういう選択肢があれば「やめられないなら、始められない」ということがなくなり、延命治療の過剰な差し控えや、望まない延命治療が減り、本人やご家族の決断の迷いや後悔も軽減できるのではないかと思われます。医師にとっても「本人やご家族が望まない治療をしている」という葛藤を減らすことにつながる気がします。
これについては以下のウエブサイトが参考になりますので、ご紹介します。

https://www.kango-roo.com/work/6114/
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2021/3412_01#annot

◎まとめ

●『人生の主人公は自分!  人生の最終段階の主導権は自分で握っていい』

すべては医師次第!  希望する最期を迎えるために一番大切なことは「医師を選ぶ」こと

「医師・医療機関の選択」を間違えたためにせっかくのリビング・ウイルカードが生かされなかった「看取りのエピソード」を見るたびに、とても残念な気持ちになります。

自分の考えや家族の状況を把握してくれている主治医が、在宅訪問をしてくれるのならベスト……そういう主治医を見つけ元気なうちから診てもらっておくと安心です。

医師はたまたま出会う人ではなく、リサーチして見つける努力をしなくてはいけないのだと思います。そのために尊厳死協会は、リビング・ウイル受容協力医師を見つけ、登録のお願いをし、WEBサイトで、可能なかぎり多くの医師の紹介ができるように全力をあげて手を尽くす日々です。そのリストアップに、皆さまからの投稿も力になります。

良い出会いをされた医師や医療機関・介護施設の情報はいつでもお待ちしています。是非「小さな灯台」ご意見コーナーにお寄せください。

最期を迎える段階になって慌てるのではなく、尊厳死協会に入会したその時からぜひ医師・医療機関探しをスタートさせましょう。どの医療機関・医師を選択するのか、その選択肢はこれからますます広がっていくのですから。
今回は人工呼吸器のことを書きましたが、胃ろうなどの延命治療についても考え方は同じです。最も重視されているのは本人の意思です。特に本人の意思が確認できない状況の時にこそ「本人の意思の推定」として「リビング・ウイルカード」はその力を発揮するようにしていかなくてはなりません。