【情報BOX】リビング·ウイルの意思を表明していたにもかかわらず、救急車を呼んでしまったら?
「お看取りの段階で救急車は呼ばない」……これはリビング·ウイルを表明して在宅医療·在宅看取りを選択し、訪問診療や訪問看護を利用しながら介護をする家族が心に留めておきたいことです。
それでも、イザ! となると慌てて119に電話してしまうのが人情……それはだれにでも(特にはじめて死を経験するご家族には)当たり前に起こり得ます。結果「本人が望まない最期を迎えさせてしまった」と後悔する事例が後を絶ちません。
1.なぜ救急車を呼んでしまうのでしょう
「慌ててしまって……」というのはもちろんですが、令和元年度 全国メディカルコントロール協議会連絡会(第1回)1)の資料によれば、下記のような理由もあるようです。
①気が動転し、どうしたらよいか分からない
②家族間の情報共有不足や意見の不一致
③医療機関等への搬送のため
④施設等の情報共有不足
⑤施設等のルール等により
⑥施設等でルールがないため
⑦医師等の指示・死亡診断、死亡確認のため
⑧通報時、心肺停止ではなかった
⑨心肺停止の判断がつかなかった
⑩警察から、又は警察の指示による救急要請
ここで注目したいのは④~⑥です。自宅ではなく、介護施設に委ねる時にも「救急搬送しない」という同意の確認が大切なことがよくわかります。
2.救急車を呼んだら心肺蘇生されると思いましょう
心肺蘇生は、心臓マッサージや強心剤の使用、電気ショックや気管切開等の一連の医療行為です。高齢者への心臓マッサージは、肋骨が折れて皮下出血だらけになる可能性もあり、本人にとっては苦しいだけです。
リビング·ウイルが表明されていれば、本来は救急隊が介入することはありません。しかし、救急要請を受ければ、現行の制度上、心肺蘇生をして医療機関に搬送することになります。救急車の中で「本人は心肺蘇生を望んでいません」と言われても、救急隊の方は困ってしまいます。
実際、総務省消防庁が全国の消防本部を対象とした調査(調査対象期間平成31年1月1日~令和2年12月31日)2)によれば、心肺蘇生を望まない人の救急要請を受けた時、8割は「心肺蘇生を中止されることなく継続」されています。
3.全国の消防本部·消防署が対応体制を整備中
「救急要請されたのに心肺蘇生を望まない」ケースは増えています。そこで、全国各地の消防本部や消防署では「できるだけご本人の意思を尊重できるように」と心肺蘇生を望まない人への対応体制が整理され、広がりつつあります。「家族が救急車を呼んでしまったけれど、本人の意向に軌道修正する道をつくろう」と努力してくださっている状況です。
全国の消防本部に行っている調査では、「傷病者の意思に沿った救急現場における心肺蘇生」への対応を決めているところが61.6%、その内容として「心肺蘇生の中止又は中断ができる」としているところが45.7%となっています(令和3年)。まだ、多くはありませんが、増加傾向にあることは朗報といえるでしょう。
例えば、東京消防庁では「ACPが行われている成人で心肺停止状態」「人生の最終段階にある」「本人が心肺蘇生の実施を望まない」等の要件が揃い、運用フローに従えば、心肺蘇生を中止できるとなっています。この場合も、必ず救急隊から「かかりつけ医等」に連絡し確認することが必須ですので、かかりつけ医を明確にしておくこと、日頃の対話を心がけ、お互いに寛大な対処ができるように、信頼関係を築いておくことが大切です3)。
4.まとめ
このように、救急隊もなんとか対応しようと試行錯誤している段階ですが、まずは「イザという時も救急車を呼ばない」ためにできることをしておきましょう。家族間、そして施設との意思の共有は大前提です。
さらに、その時に備えて「心得」を紙に書いて、連絡先とともに目につくところに貼っておきましょう。【➀救急車は呼ばない ②かかりつけ医に電話して待つ ③医師や看護師は必ず来てくれる ④それまで待っていても大丈夫 ⑤私はそばに寄り添って待てば良い、それが最高のケア】と呪文のように唱える時をもちましょう。声に出し、繰り返し自分に言い聞かせると確実な効果があります。ぜひお試しください。
在宅医療を選択する市民のひとりひとりが、学習し、行動する勇気を備えてこそ、新しい制度や社会環境は整い育っていきます。医療職者たちだけの努力では成しえないことなのです。
ただここで気をつけなければならないのは、これまでのお話は「本人がお看取りの段階に入った場合」であって、それ以前の一時的な体調変化や事故の際には救急車を呼ぶ必要があることもあります。その際はかかりつけ医か7119に電話をして支持を仰ぐか、その猶予がない場合は躊躇なく救急車を呼びましょう。
【参考資料】
1) 和元年度全国メディカルコントロール協議会連絡会(第1回)
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000766008.pdf 20240531
2)総務省消防庁 参考資料「傷病者の意思に沿った 救急現場における心肺蘇生」
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-93/02/sankou.pdf 20240531
3)心肺蘇生を望まない傷病者への対応について(東京都消防庁)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kyuu-adv/acp.html 20240531
※なお「小さな灯台」では、「知って欲しい 尊厳ある最期~人工呼吸器装着をめぐる家族の葛藤~」をテーマに特集を組んでいます(2024年6月~)。ぜひ、こちらも参考になさってください。