「申し訳なかった」という医師の温かい言葉
【遺族アンケート】
(85歳母/看取った人・娘/福岡県/2023年回答)
母からは、普段から「万が一の時延命治療はしないでほしい」と伝えられていました。
がんが見つかり、これから治療を始めようと初めての入院中、担当の先生に尊厳死協会に入っており、延命治療はしないでほしい旨、母自身の口から伝えたそうです。その2日後、退院予定の朝に急な心不全で心肺停止となり、担当医師は苦渋の決断で、家族が病院に来るまでの間心肺蘇生をされたとのお話をいただきました。
「尊厳死を希望されていたのに申し訳なかった」と、医師からは温かい言葉をいただきました。
急な別れとなり、母を看取ることができませんでしたが、担当の先生には、母の希望にできるだけ沿ったご対応をいただき感謝しています。また、がんが発覚した時、母も私も動揺しましたが、尊厳死を望むという意志を日頃から決めていたので、治療を選ぶ際も気持ちを強くもてたと思います。ありがとうございました。
【協会からのコメント】
「尊厳死を望んでおり、延命治療はしないでほしい」旨をお母様自身の口から伝え、それに応えて「尊厳死を希望されていたのに申し訳なかった」と、医師は温かい言葉をかけてくださったと。このエピソードは「患者と家族(または患者の意向を代弁してくれる代諾者注)と医師との対話」が、リビング・ウイルを果たす何よりの力になることを物語っています。
命の危機という局面は、いつどのような事態になるか予測不可能。
だからこそ、医師をはじめとする医療・ケア職は、いつも予測不可能な事態に対峙しながら「決心・決断・行動」する努力を重ねています。
リビング・ウイルは医療者の努力だけでも、患者の努力だけでもなく、患者さん自身の意思を代諾するご家族の「決心・決断・行動」も必要なのです。
まさに三位一体をめざし、お互いにリスクを分かち合う真摯な関係性を築きあう不断の努力が重なりあって実現していくものだということを教えていただける「看取りのエピソード」です。
ご投稿ありがとうございました。ご冥福を心からお祈りしております。
編集部注)
代諾者(=医療代諾者)
代諾者は認知症が進んだり意識がなくなった時、自分の代わりに医療的処置や治療に関して代弁してくれる人のこと。
後見人制度は主に資産管理が役割、医療的判断はできないことになっています。日本ではまだ代諾者の法的担保はありません。