わずかな時間を好きに生きてほしい
遺族アンケート
85歳母/看取った人・娘/東京都/2021年回答
「お母さんたち、これに入ったから」と尊厳死協会の会員証を見せられたのは臓器移植法案が話題になりはじめた頃ではなかったでしょうか。私たち家族は幸いに病気とは無縁で、健康に恵まれた日々を送っていました。「コロっと死にたい」一致した考えでした。
その母が定期健診でガンの疑いがあるのでと精密検査を勧められました。国立がんセンターでの初診の際も、検査結果を聞く際も、場面場面で「私はこれです」と会員証を提示していました。先生方は「まだ、その段階ではないよ」と笑いながら母をなだめているようでした。母が高齢であったこともあり、在宅での緩和ケアを選びました。新しく主治医となった先生にも「私はこれです」と会員証を提示、看護師さんにも提示、怖がりで痛いことが嫌いな母は余計なことはしてくれるなと言いたかったのでしょう。先生も看護師さんも笑顔で受け流していたようです。
在宅診療が始まってすぐに酸素をつけられました。それと同時に認知症が顕著になりました。私は現実逃避かなと思いました。酸素をつけるまではしっかりしていた母が、こんなにもわからなくなってしまったとショックでした。時々正気になって酸素をはずしてタバコを吸っている姿を見ると、わずかな時間を好きに生きてほしいと思いました。食欲が落ち、食べることができなくなってきた時、点滴での栄養補給も提案されましたが、迷わず “NO”と言えました。痛くないように、苦しくないように、それだけが望みでした。そして眠るように息を引き取りました。
母が尊厳死協会に入ったのは、一人娘の私が、決断しやすくしてくれたのだと思います。見事な終活でした。
協会からのコメント
怖がりで痛いことが嫌いなお母様は、出会う医療者すべてにリビング・ウイルを提示することで見事に自身の希望を実現された「看取りのエピソード」です。
広くさまざまな方にリビング・ウイルを伝えることが効果的で、穏やかな最期をと看取った娘さんの満足にもつながっています。
死の間際での「最善を尽くす」というのは、不要な苦痛をなくして過ごせること、延命拒否ではなく、快適の追求と考えてみることを「小さな灯台」ではお勧めしたいと思います。