【情報BOX】尊厳死を希望する人の代託者になるあなたへ-親の“老い”と向き合う時に役立つ《老い知識》のすすめ No.1高齢者とは?
ある80歳を過ぎた高名な女優さんが「私たちは戦中・戦後を生きて、たくさんの死を見聞き経験してきました。だから死ぬのは怖くないの。でも、死ぬという前に“老い”というのがあることを知らなかった! わからないのよ、何が病気なのか? 老いなのか? どうやって老いることと付き合っていけばいいのかが……」とおっしゃっていた言葉が忘れられません。確かに!!
エイジレスであることが推奨される社会では、いつからが高齢者なのか? それすら曖昧で、高齢者を処遇(もてなし・サービス)するのも、時と場所によっては、はばかられます。
年を重ねることで起こるさまざまな心身の変化。しっかりしていた親の、目に見えてわかる変化に、戸惑い、イライラをつのらせてしまい、そして優しくできない自分に自己嫌悪……。それは「昔の姿をよく知る」家族だからこその葛藤で、仕方のないことです。
このように、老いとともに訪れる心身の変化は、家族間や職場や社会でのコミュニケーションを悪化させることもあります。でも、老いを文化的な意味からだけ批評するのではなく、老いるという生理的な変化を《老い知識》として知っておくことで「そういうお年頃」「それ普通のこと」と受け流せることもあると思います。
人は乳幼児期、学童期、青年期、成人期、壮年期、老年期と生理的に変化していきます。
子どもと大人では、かかりやすい病気も対応も違うからこそ、小児科から内科へと移行するのは周知のことです。それと同じように、高齢者も若い人とは違う症状の出方があり、対処(検査値の見方や薬の出し方など)も違っています。だから、老年病科(老年内科)という診療科があります。
そのような高齢者の特徴を知り【老いた状態を受け容れること】は、高齢者ご本人にとっても、その代託者となる子ども(特にリビング・ウイルを希望する親をもつ)にとっても、医療や介護~看取りに至る選択・決断をする時の参考になるでしょう。また、おりおりの選択・決断を精神的に楽にするコツでもあります。
特にリビング・ウイルを希望する親の看取り、終末期におけるACPの選択の際に、知っておくと役に立ちそうな項目について、これから順次、情報BOXで取り上げていきたいと思います。
《老い知識》としてシリーズでご紹介していきますので、参考にしてください。
まず初回は「高齢者とは?」という基本知識からスタートしてみましょう。
◎高齢者は75歳以上?
高齢者って何歳からかご存じでしょうか? 多くの人は「65歳」と答えると思います。しかし、高齢者の体力・知力は向上し、総じて5~10歳若返っていることがわかり、日本老年学会と日本老年医学会は75歳以上を高齢者とする提言を行っています。
▶日本老年学会 http://geront.jp/about/index.html
▶一般社団法人日本老年医学会 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/
◎女性の方がフレイルになりやすい
フレイルとは、全身の老化がすすみ、病気にかかりやすく、心身の機能も低下しやすくなっている、要介護の一歩手前の状態です。平均寿命が女性の方が長いため意外と思われるかもしれませんが、男性はがんや心筋梗塞といった命にかかわる病気になりやすいのに対し、女性は骨粗しょう症や変形性関節症、認知症といった自立度を落として要介護に至りやすい病気にかかりやすいのです。
◎老年症候群とは?
高齢者に特有ないし高頻度にみられる症状のことを老年症候群といいます。
一番多いのは認知症、続いて尿失禁、難聴、頻尿、便秘、不眠、うつ……と続きます。そして高齢者の場合、多疾患が特徴で、70歳では7つ、80歳では8つと年齢の10分の1くらいの症状をもっているのが普通です。
病気の数が増え、複数の医療機関を受診することで薬の種類も増え、10種類以上の薬を服用している高齢者も珍しくありません。
そこで、大事になってくるのが【ポリファーマシー】という言葉です。
次回の《老い知識》はこれをテーマに解説します。
◎参考資料
1)秋下雅弘監修. 東京大学医学部附属病院老年病科編. 高齢者の患者学“治す医療”から“治し支える医療”へ. 株式会社アドスリー,2020
2)杉山孝博. イラストでわかる高齢者のからだと病気. 中央法規出版, 2013
3)大内尉義監修. 東京大学医学部附属病院老年病科編. やさしい高齢者の健康教室.医療ジャーナル, 2013