【情報BOX】尊厳死を希望する人の代託者になるあなたへ−親の“老い”と向き合う時に役立つ《老い知識》のすすめ No6 老化による聴覚・聴力の変化とは? その3 聴力と看取り

「老化による聴覚・聴力の変化とは? その1その2」では、老化によって聴覚・聴力になぜ、また、どのような変化が起こるのか、聴覚・聴力の衰えにどのように対応したらいいのかなどについてお伝えしてきました。

今回は、「聴力と看取り」をテーマに、大切な人を看取る際に知っておきたい聴覚・聴力の“不思議な特徴“についてお伝えします。

◎聴覚は“最期まで残る”感覚
不思議なことに、五感のうちの「聴覚」(と「触覚」)は最期まで残る感覚といわれています。私たちは心停止すると意識もすぐになくなってしまうと思いがちですが、実は本人は意識があり耳は聞こえているという可能性が大いにあるということです。

2014年に英サウサンプトン大学の研究チームが、心臓や脳の活動停止(いわゆる死)から回復した人たち(対象2060人のうちの蘇生した330人中110人)への聞き取り調査で、39%が「臨死時の出来事は思い出せなかったが意識はあった」と述べたと発表しました1)。そのうち46%が恐怖や既視感を感じたり親族や動物・植物などの映像が浮かんできたと答え、2%がその間に見たり聞いたりした出来事を思い出せ、うち1人は研究者らが3分間隔で鳴らしていたブザー音を「2回聞いた」と話したといいます。

このような研究結果以外にも、医師や看護師などの医療者は日常的に身体的機能が衰えても意識や聴覚が最期まで残ることを体感しており、心停止し死亡宣告を受けた患者にも人工呼吸器の管を抜く際には局所麻酔を使い、優しいねぎらいの言葉かけを行います。

知人の看護師に聞くと、「『ご臨終です』と言われた直後に、遺産をめぐって罵倒し合うご遺族のケンカに遭遇することもしばしば。そんな時には、『患者さんはまだ声が聞こえていますから、言い争いは別室でしてください』と嗜めることがよくあります」と話していました。

死にゆく人は、最期まで周りの声が聞こえています。お別れは悲しくつらいものですが、「今までありがとう」「お疲れさま」「さようなら」などとお別れを告げ、「大丈夫」「さあ、行きましょう」「また会いましょう」などといったプラスの声かけをして見送りたいものです。また、聴覚に訴え、お気に入りの絵本などを優しく読み聞かせたり、好きな音楽をかけたりすることなども安らかに見送る手助けになるでしょう。

▶️【情報BOX】日本尊厳死協会員のための【看取りの観察と過ごし方ガイド】―安らかに健やかに最期を過ごしていただくために、私たちにできること―

◎音楽の持つ力−音楽療法を看取りに
▼音楽療法とは?
私たちは好きな音楽を聴くと元気が出たり、安らいだり、昔の出来事を思い出したりします。そうした音楽の持つ力を心身の障害の回復や機能の改善、生活の向上に向けて医療・福祉・教育の場で活用することを「音楽療法」といいます。

▶️日本音楽療法学会 https://www.jmta.jp/

▼認知症を持つ人が好きな音楽を聴くと…?
音楽療法の世界では、終末期の患者が自分の好きな特定の音楽に癒されること、認知症を持つ人たちが音楽に感応することが解明されてきています。認知症を持つ人には共通して混乱と不安感がありますが、好きな音楽を聞いたり、奏でたり、歌ったりすることはそれらを和らげる即効性があるとされています。

長年、認知症を持つ人への音楽療法に取り組む音楽家・みつとみ俊郎さんは、「1人ひとりの人生が音楽に反映します。音楽療法では、その方に必要な音楽、記憶に結びつきやすい音楽を導き出していきます」と言います。一律にその人が若かったころの流行歌などではなく、パーソナルな音楽がその人の「記憶」の糸を辿る助けになり、生命力を与えるのです。

以下の資料は、音楽療法とその実際・効果についてとても理解しやすくおすすめです。

▶️「TED×Haneda音楽は介護を救う」(講演者・みつとみ俊郎/2016)
  https://youtu.be/rnekrlNd8ug
▶️ 「パーソナル・ソング(原題Alive Inside)」(監督・マイケル・ロサト=ベネット/2014)
  認知症者が音楽療法で記憶を取り戻し劇的に変化する様子を綴ったドキュメンタリー映画

◎なぜ「パーソナル」が大切なのか?
「看取りの音楽は、以前訪れた場所で聞いた川の流れる心地よい音など、もしかしたら曲ではないかもしれません。それぞれのオンリーワンを提供することが大切です」(前述・みつとみさん)

なぜ、パーソナルであることが大切なのでしょうか。それは「記憶」がパーソナルなものだからです。音楽には記憶を呼び覚ます力があります。音楽(音)が「混乱と不安感を取り除くこと」「幸せな記憶の糸を辿ること」は、看取りの際にも大切なことです。 

幸せな記憶や感覚を呼び覚ます音楽(音)、愛する人たちの声や言葉に囲まれる−−。最期まで私たちと大切な人をつなぐ「聴覚」というチャンネルを意識して、敬意と尊厳に満ちた看取りができたら、送る側・送られる側双方にとって幸せなことではないでしょうか。

◎参考資料
1. Parnia.S.,et al.(2014). AWARE-AWAreness during Resuscitation-A prospective study.    
  Resuscitation, 85(12), 1799-1805.