「自分はどうしたいのか」尊厳死協会への入会で最期への準備。
遺族アンケート
母は12年前に甲状腺乳頭がんの切除手術をし、2年前に放射線治療をしましたが、コロナ感染症が拡大し始めた今年の3月頃から声がかすれるようになりました。当初は以前の手術で切除しきれなかった部分があったため、そこが時間の経過とともに大きくなったためと思っていましたし、コロナ禍の中で頻繁に病院に行くのをためらっていましたが6月、甲状腺に新たな低分化がんができていたことがわかりました。父が胃がんで亡くなった後、2012年に母本人の希望で尊厳死協会に入会し、将来自分が他の病気になったり、甲状腺がんが再発したり、悪化した場合は、もう治療せず、緩和ケアで最期を迎えたいと話していました。6月に甲状腺がんを診ていただいた医師と、自宅近くのホームドクター、そしてケアマネージャーにご相談しました。そして甲状腺のホームドクターに連携して頂き、一旦は自宅で緩和治療を行うことにしました。また同時にホームドクターと緩和ケアが可能なT病院が連携してくださり、家にいることが難しくなった場合には受け入れていただく準備を進めました。母本人と家族にとって想定できなかったことは、甲状腺がんの進行によって、まずは固形物が食べられなくなり、とろみ食やゼリー状の物も食べられなくなり、液体も飲みづらくなり、あっという間に飲めなくなり、食後は自らの唾液さえ飲み込めなくなった頃でした。そんな中でも本人は、尊厳死協会に入って以来、自分がどうしたいかを考えていたため、ためらくことなく「がんに対する治療はもうしない」と自らの意志と言葉で表明できました。一点だけ戸惑うことがありました。「私の希望表明書」の中の3番にある“自分で食べることができなくなり、医師より回復不能と判断された時の栄養手段で希望すること”にある「点滴による水分補給」ですが、当初印をつけておらず、液体が飲めなくなった時点で最小限の水分を点滴で補うにあたり、ケアマネージャーから再度確認がありました。このような状況を想定していなかったため、本人も少し戸惑いました。父は最期まで病名を知らされなかったため高濃度点滴を自宅でしていましたが、今回はそれとは違う事、また1日500mlと必要最小限であることを医師から説明されてこれは受け入れる事になりました。実際に現実に直面し、「点滴による水分補給」がどのような意味を持つのかを本人も家族も初めて認識しました。そして、この時にホームドクターはじめ看護師さん、ケアマネージャーの皆さんが丁寧に説明をしてくださり、本人と家族に考える時間とその意思を尊重してくださったのは大変大きかったと思います。母は食べる事が出来なくなってから約2ヶ月を自宅で過ごし、最後は自分で「病院に入る」を言い、緩和ケア病棟に入院し、7日目に家族に囲まれて静かに逝きました。私も尊厳死協会に入会していますが、冊子が届いた折に母と最期について話し合う機会が度々持てたことは、母の「最期はこうありたい」を知ることにつながり、このような「いざという時」の為に大きな役割を果たしたと思います。また、母の最期にあたっては緩和ケアを理解して頂けるホームドクターや看護師の方々の連携と支えがあってこそ母が望んでいた最後が実現できたと思います。猛暑の日も雨の日も通い続けてくださった多くの方々に心から感謝しています。また、尊厳死協会の果たす役割はとても大きいという事をもっと多くの方に知って頂きたいと思い、長くなりましたが書かせていただきました。
協会からのコメント
貴重な”死に至るプロセス”を知る一つのモデルケースです。死に至るプロセスは一つとして同じものはありません。だからこそおひとりおひとりの体験を知る機会は貴重です。お母様の看取りまでの経緯を丁寧に投稿していただいたこと、心から感謝申し上げます。『2012年にリビング・ウイルと協会に入会後、母が事前に様々な事態を想定して 自分の考えを決め、表明していたこと。 想定外のことには、医療者や関係者から十分な説明を 受け、本人が判断できたこと。最後は、家族の負担を考えて病院に行ったこと』 などなど、心にリビング・ウイルという「軸」があれば、こんなにも自立した医療受診行動、ができるのだと感心しました。
エンディングノートや終活など色々な媒体がありますが、単に書き込むことだけにとどまらない、季刊誌が届くことで、そのおりおりに母子で語り合う機会が持てる、という協会活動が、終末期の医療に対するそれこそ、意思決定の支援として、お役にたてていることを改めて知ることもできました。
リビング・ウイルを登録いただいた会員の皆様に寄り添い続ける協会活動を継続し続けて参ります。 これからもご一緒に尊厳死を目指す生き方の啓発にご支援ください。代諾者(私が意思表示できなくなった時に私に代わり私の意思を伝える人。) としての大役を果たされたご家族様へ尊敬の気持ちと共にお母様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。