排せつコントロールに苦しんで
遺族アンケート
86歳父/看取った人・娘/福岡県/2022年回答
父が「尊厳死協会」に入っていること、献体登録をしていることは知っていましたが、そのことについて、父と具体的に話したことはありませんでした。5年前に「前立腺がん」と診断されましたが、在宅で最期まで過ごすことができ、前日までデイサービスに通うこともできました。これは「訪問看護」「デイサービス」「在宅訪問医」「ケアマネさん」たちの支えのおかげです。
旅立つ2か月ほど前から「痛み」の訴えがあり。旅立つ1か月前から排便コントロールに苦しみました。それまで、体がきついながらも、自分でトイレで用を足すことができていたのですが……。トイレが気になり、何度も何度も行く。特にデイサービスでは、トイレを独占するくらいの頻度で行く。そのうち、夜間も間に合わなくなったりすることもあり、やむを得ず紙オムツへ。「紙オムツ」をしておけば大丈夫なんだ、と本人が理解するのに時間がかかりました。排便が思うようにできないことから、アルツハイマーも一気に進んだりもしました。がんの末期には、排便コントロールがうまくいかなくなることを知っていたので、もっと早く? 何か、手立てをうてたら良かったのかなぁと思いながらも、その時は「訪看」時に看護師さんに相談しながら、通所のスタッフさんに相談しながら、必死でした。何より、本人が人間の尊厳に関わる「排せつ」のことに苦しんだことがとてもつらかったです。娘にオムツを触られたり(ベッドでオムツ交換したのは、最期の時だけでした。亡くなる1時間前に「痛い」と大声をあげて……その時に「オムツ換えようか?」と聞くと「うん」と。その時が最初で最後)、便のことをあれこれ言われるのは、アルツハイマーになっているからこそ、余計に本人がつらかったと思います。
しかし、最期の1週間はとても穏やかで、家族のこと、遠く離れて暮らす長女の名前も思い出したり、いろんなことを気にかけて、話す内容もアルツハイマーになる前のようにしっかりしたものでした。本人らしく、本人が思うように、旅立つお手伝いはできたような気がします。コロナ禍で、「献体」は自宅で亡くなったので引き取れないということで、これだけは、父の意にそぐいませんでしたが。おかげで、長く(葬儀までの間)父は、家にいることができました。在宅で看取り、自宅で葬儀もできたのは「訪看」の方々やデイサービス、往診の医師、ご近所の支えのおかげでした。長々と申し訳ありません。
【要望】最後になりましたが、「リビング・ウイル」にて「グリーフケア」のことも取り上げていただけたら……と思います。
協会からのコメント
人生の最終段階(終末期)は、「排せつ」に関係することがとても大きな日常生活のテーマになることを、もっと多くの人々に知ってほしいと思います。
まるで1日が「排せつケア」に始まり、「排せつケア」で終わる……夜中の睡眠中の排便・尿漏れも対処が必要になるので、まさに24時間、気が抜けることがないと言っても過言ではありません。
最期までトイレへ、排せつだけは自立していたいと願う方。「『オムツ』だからしていいよ」と言っても納得できない方、スムーズにオムツを受け容れる方とさまざまです。高齢になればなるほど「下の世話」をしてもらうのを心配し、家族に頼むのを嫌がる方が多くなるのもうなずけます。家族の誰かが、まる一日中、排せつの介助で明け暮れるという事態になりかねないからです。
在宅での介護で、夜中のおむつ交換サービス、訪問介護・訪問看護師による排せつの介助は必然のサービスなのです。「家族がいるのに、なんで毎日オムツ交換のための訪問サービスが必要なの?」という発言はもうやめましょう。
「終末期のケア」のためにも、多種多様なサービスや商品(介護保険制度適応で購入ができる福祉器具など)があります。オムツも体型と尿量に合わせて種類、サイズ、厚さが豊富で、あて方の工夫等もされています。
例えば、
- 便座が上がる昇降機能付き便座(足腰が弱り、座位になるのが困難な人のために座面がリフト式であがり、便座に座るのを助けてくれるトイレ)
- 車椅子や歩行器でも利用できるように自宅トイレの間口を広げたり、ドアを開放式にしたりする住宅改装
- 紙おむつの無料支給(地域と収入、介護度により対象外になる可能性はありますが)
- 家族がいても、鍵を預かり深夜だけ訪問してくれる「深夜のおむつ交換サービス」
- 毎日のモーニングケアで、夜中のトイレ周りの始末から着替えの世話や洗濯をしてくれるヘルパーサービス
- 朝まで交換の必要のない漏れないオムツの当て方を工夫して成果をあげているヘルパーさんのスキルや、時間決めでオムツの交換だけに特化した巡回ヘルパーサービス
などなど、本人の希望と家族の事情にあわせて利用できるサービスがいろいろあります。ケアマネジャーさんに積極的に相談してみましょう。
直面した時は無我夢中で何が何だかわからず、過ぎてしまうと全く関心がなくなる排せつ周りの話題ですが、それだけに「小さな灯台」では、終末期の介護状況や、在宅でも利用できる介護サービスの数々の情報も届けていけるようにしたいと思います。
思い出したくもないという人もいるでしょう。それだけ痛みと排せつに関する経験はトラウマになりやすく、特にグリーフケアの必要が専門家の間では認められています。グリーフケアについては【情報BOX】「グリーフケア-大切な人を亡くした哀しみを癒すために」をぜひご覧ください。
リアルなお父様の終末期の様子をご投稿いただきありがとうございました。