【情報BOX】「人工呼吸器装着=気管切開」とは限らない 人工呼吸器ってどんなもの?その目的と種類は?

これまでの【情報BOX】の中でも、「人工呼吸器は取り外すことができるの? できないの?」は閲覧数がひと月で5000件を超えたことがあるほど関心の高いテーマです。本サイトの第1回特集「人工呼吸器装着をめぐる家族の葛藤」でも垣間見られるように、今、多くの家族が人工呼吸器装着をめぐる苦悩や葛藤を抱えているのではと想像できます。

そもそも、その人工呼吸器とはどのようなものなのでしょうか。ひと口に人工呼吸器の装着といっても目的はさまざまで、その方の状態によって使用する人工呼吸器の種類も異なります。

ここでは、人工呼吸器がどのようなもので、どのような種類があるのか、また、こちらも関心の高いテーマの一つである「気管切開」との関係について紹介していきます。

◎人工呼吸器装着の目的は?

人工呼吸器は、例えば呼吸がない時や呼吸が正常ではない時など、肺の働きが弱くなった時に肺に代わる、またはその働きを助ける医療機器です。特に酸素療法などによる酸素の投与だけでは不十分で、呼吸のつらさが改善されない場合に装着されます。

具体的に、人工呼吸器は人工の気道を通して、必要な濃さの酸素を適切な量や圧力で肺に送り込む機器です。そのため、生命に直結する生命維持装置の一つとされています。

例えば、人工呼吸器による治療が必要な状態には呼吸不全(自力の呼吸では酸素が十分に取り込めない)、重症の心不全、重篤な外傷や疾患、心肺停止などが挙げられますが、弱くなった肺の働きを治療するのではなく、なんらかの理由で弱くなった肺の働きが改善するまでの間、呼吸を適切にコントロールして肺を助けることで生命を維持する手段と言えます。

図に人工呼吸器による治療に用いる主な気道を示します。①鼻カニューラ、②マスク、③気管挿管、④気管切開の順で徐々に重症度が高くなります。厳密には①の鼻カニューラは人工呼吸器を使用する前の酸素療法で用いられるものです。チューブに付いた突起を鼻に入れるだけで負担も少なく、会話や食事、入浴も支障がありません。取り外しも簡単です。

出典:NHK https://www.nhk.jp/p/kyonokenko/ts/83KL2X1J32/episode/te/6XP1NKXGYG/

◎人工呼吸器にはどんな種類がある?

ひと口に人工呼吸器の装着といっても、①手動によるもの、②機械によるもの、機械によるものでは、①装着に際して患者へのなんらかの医療行為を伴う(侵襲的な)もの、②伴わない(非侵襲的な)もの、に分類されます。

▼手動による人工呼吸器
手動による人工呼吸器は、主に心肺停止や意識喪失などといった緊急蘇生時などに用いられます。バッグバルブマスクという手動の人工呼吸器具で鼻と口から空気と酸素を送り込みます。操作が簡単で、病院の内外や災害時など幅広い場所や状況で使われています。

▼機械による人工呼吸器
機械による人工呼吸器には、装着に際して患者へのなんらかの医療行為を伴う(侵襲的な)ものとそうでない(非侵襲的な)ものがあります。一般的に「人工呼吸器」と言えば、侵襲的な人工呼吸器のことを指します。

装着に際して、非侵襲的な人工呼吸器では気管挿管や気管切開を行わずに鼻マスクや顔マスクなどを用います。そのマスクのホースを人工呼吸器につないで強制的に呼吸を行います。取り外しが可能なため、会話や食事はマスクを外して行えます。

侵襲的な人工呼吸器は、人工的に気道を確保する必要があるため、鼻や口から長さ30cmほどのチューブを喉の先まで挿入する「気管挿管」や喉仏の下を切り直接気管にチューブを挿入する「気管切開」を行います。

▼体外循環式の人工呼吸器
他にも、これまで紹介したような人工呼吸器では対応できない重い病態に対応する体外式膜型人工肺(extra corporeal membrane oxygenation:ECMO)などがあります。これは体外の装置(人工肺)を使うことで、肺を使わずに回復させながら全身の酸素化を保つことができる人工呼吸器です。

◎気管切開になる場合・ならない場合は?

気管挿管ではチューブをそのまま鼻や口に入れると苦しいため、多くの場合、鎮痛・鎮静剤を投与します。簡単に取り外しはできず、会話や食事はできません。また、長期間使っていると感染症のリスクも高まるため、適宜見直しがはかられ、回復が見られない場合は、次の段階として気管切開を勧められるケースが少なくありません。

気管切開には確実に気道が確保できることで呼吸が楽になる、痰などの吸引が楽になる、誤嚥しにくいなどのメリットがあり、気管挿管が長期間になる場合や長期間になると見込まれる場合、自力で痰を出すことが難しい場合、口や鼻の異物や腫瘍などで気管挿管が難しい場合などに選択されます。気管切開をすると基本的に会話はできませんが、切開する場所が声帯の下であるため発声訓練は可能となり、食事や入浴も可能です。

近年はより非侵襲的な治療を選択することが望ましいという世界的な認識があり、日本でも「侵襲的な処置は最後の手段」と考えられつつあります。また、患者が回復するにつれて、再び自分で呼吸ができるよう徐々に呼吸の補助を減らすことを試みていきます。

なお、自力で痰を出すことが難しい場合など、原因によっては気管切開をしたからといって必ずしも人工呼吸器が装着されるとは限りません。

◎まとめ

以上のようにひと口に人工呼吸器と言っても、その種類はさまざまです。まずは基本的な知識として人工呼吸器にどういったものがあるのか、それぞれの違いなどを簡単にでも知っておくと医療者とイメージを共有でき、希望する治療方針を正しく選択しやすくなると思われます。またそれによって、いざという時にも少し気持ちに余裕がもてるようになるのではないでしょうか。

参考資料
1)NHK. きょうの健康 もしもの時に備えて「人工呼吸器」.https://www.nhk.jp/p/kyonokenko/ts/83KL2X1J32/episode/te/6XP1NKXGYG/ 20240615