【情報BOX】家族と契約 No.4 まとめ&今注目の「家族信託」

「家族と契約No.1~No.3」においてさまざまな制度や契約を紹介してきましたが、結局どの契約がベストなのでしょうか?

簡単にまとめますと、生前に認知症や疾病などにより判断能力が衰えたりした方のために「後見制度」が活用されることと、後見の範囲外であるために代理できない事務については各種の「委任契約」がカバーし得ることがわかりました。また、死後における自己決定の尊重として「遺言」があり、これも「遺言事項」以外のことについては「死後事務委任契約」等が活用できることがわかりました。

生前に判断能力が欠如してしまった場合
・法定後見が活用されている(デメリットも指摘されている)
・任意後見契約では後見人の予約が可能になる
・後見で代理できない範囲のことについて、見守り契約/財産管理契約(各種委任契約)が追加されることがある
■死後のことを自分で決めるには
・基本的には遺言で決める
・遺言事項でないことは、死後事務委任契約等で決める
・死因贈与契約でも遺産の贈与は可能

人生の最終段階においては、周囲が本人をサポートしたり、本人があらかじめ意思表示を書き遺しておいたりすることで、本人の自己決定権や財産を守ることができます。また、ご家族にとっては「預金の凍結を防ぐ」といった実際的なニーズもあって、ここに、後見制度の存在意義があります。

ただし、あらゆる事態に備える完璧な方法はなく、そもそも法律だけが解決の手段とはいえません。結局、本人の心身の状態や財産的な問題にあわせて選択して、上手に組み合わせて活用していくべき問題だと思いますし、制度の方もまだ進化しなければなりません。

最近新たに「信託」による手法が提案されるようになりました。「信託」は、上記の契約や制度の性質を併せもったような、あるいは「遺言」や「契約」ではできなかったことができるようになったりもするという、カードにたとえるならまるで「ジョーカー」みたいな制度です。あなたも「家族信託」とか「民事信託」という名称を聞いたことがあるかもしれません。信託法の改正によって可能になった、比較的新しい方法です。そこで最後に「信託」の基本的な部分を説明して、今回の情報のまとめにしたいと思います。

◎家族信託って何だろう?
「家族(民事)信託」とは「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること」と説明されます。信託された財産は登記され、「委託者」からも「受託者」からも独立した「信託財産」という、別個の、隔離された資産となります。要するに特定の財産を隔離し、あらかじめ設定した目的に従って、「受託者」がその管理又は処分を行います。

信託は、実際にはかなり複雑な制度ですが、入門用の簡単なイメージとしては、次のようなものです。まず、お母さんが子どものお小遣いを預かります。そうすることで、いろいろな意味で安心してお小遣いが管理されるようになります。たとえば「塾の月謝」などのあらかじめ話し合って決めた目的に使われて、結果としては子どものためになります。

■入門用の簡単なイメージ
「お小遣い」は、お母さんが子どもから取り上げたわけではありませんが、とはいえ子どもの手元からはなくなります。家のどこかにある特別な棚の引出しに大切に保管されて、以後はお母さんによって管理されるわけです。さらに、お小遣いがお母さんのお洋服に姿を変えたりしないように、お父さんに監督を頼むこともできます。

「信託」の用語にあてはめていうと、この「子ども」は「委託者」です。そしてお母さんは「受託者」、お父さんは「信託監督人」です。また、信託のメリットを享受する人のことを「受益者」といいますが、この話の中でいうと、将来、貯めたお小遣いで塾に通うことになるであろう「子ども」が「受益者」といえます。(つまり「子ども」は「委託者であり受託者」です)。

このように「家族信託」をごく簡単にいえば、ある財産をまず完全に分離して、契約などによって具体的な目的を設定し、上記のようなプレイヤー各自の役割分担をつくることにより、「受益者」のために管理してあげられるしくみだ、といえます。この実に面倒くさいしくみを最初に組むことによって、他の方法ではできなかった独自の財産コントロールが可能になるため、信託という手法が注目されはじめたのです。

◎家族信託が流行る理由は?
単純にいえば以上のようなしくみなのですが、現実には登場人物を増やしたり、条件を付け足したりすることで、家族信託には多くのバリエーションが生まれます。活用目的もさまざまです。たとえば将来的に認知症になるかもしれない(と本人や家族が心配している)親がいて、その親が何か財産(現金や不動産などさまざまな財産が考えられます)を持っていたときに、この財産を「信託財産」として分離すれば、仮にこの親が「認知症」になったとしても、資産凍結などはされずに、「受託者(たとえば子ども)」が管理し続けられます。「管理」とは、定期的な生活費の支出のこともあるし、収益不動産に関する事務のこともあります。つまりその財産の使い方や管理の仕方も、ケースバイケース、自分たちで決められるというわけです。

今回のテーマに合わせていうなら「家族信託」は、高齢、疾病、障害などにより、何らかのサポートを必要とする親など(=委託者)が持つ財産を、信頼できる誰か(=受託者)が代わりに管理してあげられるようにする手法ともいえます。前述の「後見制度」にあったような「家庭裁判所の関与」も必要なく、そもそも契約目的を委託者が具体的に決めてから開始するため、財産を不本意に運用されたり管理されたりして後悔する、といったリスクも下げられます。

信託の最大の特徴は、そうすると決めた財産を委託者からすっぱりと切り離して、受託者に管理させられることにあります。自分の財産でありながら信託財産という特殊な枠に入れることで、仮に委託者が認知症などになり意思能力を喪失しても、いわゆる凍結を回避することができ、受託者による管理は継続できます。

◎スキーム選択は慎重に
「家族信託」は財産の管理や運用を、自由に設定、設計できる、応用範囲のとても広い契約です。逆にいえば「こういうのが家族信託だ」という単純なモデルを示すのが難しいしくみともいえます。いろいろな契約がある中で「家族信託」はすべてにおいて理想的な方法なのでしょうか? 確かに使い方によっては認知症対策として画期的な側面があることは事実です。認知症になってしまうと理論上、自宅を売ることも、新たに契約することも、遺産分割協議に参加することもできません。たとえ本人に有利な内容の手続きであってもできなくなります。これは本人にとっても、周囲にとっても財産管理上の大きなリスクとなり得ますから、ここに手を下せる手段は多く知っておく方が良いでしょう。

とはいえ、とにかくケースバイケースです。そういう場合もあれば、そうでない場合もあります。信託が最近注目されているからといって飛びつきたくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、複雑な手続き(公正証書化や登記など)が必要なため、報酬を得てアドバイスをする銀行や専門家もいます。ただ、まずは複雑なスキームをきちんと理解できるのか、自分の目的に照らして本当に信託でなければできないことなのかは、冷静に確認すべきだと思います。

蛇足ですが、相続関連のサービスは比較的大きな金額のお金が動くために、この「市場」に参入したい業者もたくさんいます。市場が過熱すればある程度はポジショントーク、セールストークも必要となり、特定の手法こそがあたかも理想的な手法であるかのように提案される可能性はあります。未来への漠然とした不安につけこみ、複雑な手法を、まるで一切を解決できるかのように言いくるめる話には、くれぐれも注意してください。どんな契約をするときも、自分(と自分の家族)が何を重視するのか、まずはその目的を明確にすることが第一だと思います。心配していたことも、実は簡単な「遺言」で十分だったりするかもしれません。人生観も事情も人それぞれです。ご自身に本当に合った対応をとりたいですね。

これで「家族と契約 No.4」はおわりです。
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