【情報BOX】看取りのプロセスで家族が果たす役割 No.2 入院・入所時の身元保証人は誰にお願いしますか?
No.1で解説した「キーパーソン」と同様に、多くの医療介護施設では、入院や入所の際に「身元保証人」を求めています。
身元保証人も、医療介護施設によって求められる役割はまちまちです。1名の場合もあれば、連帯保証人などの名称で2名必要な場合もあります。誓約書等でよく内容を確認したうえで、誰が身元保証人になるのか、本人・家族が話し合って事前に決めておくようにしましょう。
ここでは、身元保証人を「各種手続き・支払い(医療費や施設利用料)の保証・亡くなった後のご遺体の引き取り」など、どちらかというと法的義務を負う人という前提で説明します。
※キーパーソンに、身元保証人としての役割も求める医療介護施設もあります。実際には、キーパーソンと身元保証人は同じ人がなるケースが多いです。
◎身元保証人の役割
主に以下の役割を果たします。
- 入退院手続き
- 支払いの保証
- 医療行為の同意(手術の同意書にサインをするなど)
- 退院時の身柄の引き受け
- 死亡時の遺体・遺品の引き取り、居室の明け渡しなど
身元保証人の役割は主に「連帯保証」と「身元引受」です。
「連帯保証」は、本人が入院・手術費用や施設利用料が支払えなくなった時に、代わりに支払う義務があります。たとえ本人がお金を持っていたとしても、認知機能や身体機能が低下することで、自分で支払いができなくなることもあり得ますので、身元保証人は必要になります。
「身元引受」は、入院の必要がなくなったのに本人が退院を拒否する場合などに引き受けを行ったり、本人が死亡した際にご遺体や遺品を引き取ったりする義務があります。
▶連帯保証に関する2020年4月1日の民法改正*1)
連帯保証人が負う可能性のある上限額(極度額)を契約書に明記しなかった場合には、連帯保証人に対して保証を求めることができなくなりました。入院や入所の際の連帯保証の契約書には「連帯保証人の負担は、極度額〇〇円を限度とする」のように書かれているはずですので、確認するようにしましょう。
◎誰が身元保証人になるのか
身元保証人は責任や負担が重く、気軽に知人に頼めるようなものではないため、家族がなることがほとんどです。
身元保証人になれる人の条件は、各施設によってまちまちです。例えば、債務保証の観点から以下のような条件をつけているところもあります。
・独立した生計を営む成人
⇒専業主婦の妻は、夫の身元保証人になれないことになります
・本人と別世帯で支払い能力のある人
今の時代、頼める親族がいない場合だけでなく、さまざまな事情で親族に「頼みにくい」「頼みたくない」という人も多いと思われます。このような場合、どうすればいいのでしょうか。
◎身元保証人がいないと入院できないのか
身元保証人のいない人の入院を拒否することはできません(2018年に厚生労働省は「身元保証人がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否した場合、医師法に抵触する」*2)としています)。
最近では、支払いの保証に関して「入院保証金を病院に預託すること」「入院費用の支払いをクレジットカードにし、カード番号を入院時に登録すること」などを条件に、保証人を免除するところもあるようです*3)。
病院と異なり、介護施設の場合は身元保証人がいないと入所できないケースが多いです。
※第二東京弁護士会が2017年に行った調査では、身元保証人を求める施設の場合、例外的に身元保証人がいなくても入所を認めるとの回答は約8%にとどまっています*4)。
◎医療行為の同意(手術の同意書へのサインなど)
手術などの医療行為を行う場合には、必ず本人の同意が必要です。そして、それにプラスして本人以外の同意と立ち合いを必要とする場合もあります。
本人以外の同意は、法律上の親族ではない人が行うことは一般には認められていないようです。
◎成年後見人は身元保証人になれるのか*5)
そもそも成年後見人は認知機能が低下してからでないと利用することができません。
また、基本的に成年後見人と身元保証人はその役割が違います。成年後見人の主な役割は財産の管理ですので、本人の財産の中から支払いの代行をします。しかし、本人の財産以上の支払いが必要な場合に、それを負担することはありません。
※居室の明け渡しや退院付き添いなどは成年後見人の仕事ではありませんが、それを行うサービスを手配するのは成年後見人の仕事になります。
※死亡した時点で成年後見人の役割は終了しますが、家庭裁判所の許可があれば死後の手続きを行うこともできます。
◎どうしても身元保証人がいない場合には*6)*7)
身元保証人を必要としないところ(わずかですが)や、後見人がいれば身元保証人を不要とするところを探すのがまず一つ目です。
二つ目は、親族に代わって身元保証を引き受ける法人と契約する方法があります。そういう法人は増えてきていますし、地域の社会福祉協議会などで身元保証の事業を行っているところもあります。
三つ目は、生前事務委任契約を結ぶという方法もあります。成年後見制度や任意後見制度は、本人の判断能力が衰えてからでなくては利用できませんが、生前事務委任契約ならば元気で判断能力があるうちに契約・利用することができ、身元保証人にもなってくれます。
イザという時のために調べておくとよいでしょう。
◎まとめ
本人の意思確認ができない場合に、病院や施設が勝手に方針を決めることはできないため代託者は必要です。また、医療介護という性質上、滞納があってもすぐにサービスを中止したり退院・退去を求めたりすることも難しいでしょう。その意味で、施設側が身元保証人を求めるのはいたし方ないことだと思います。
ただし、こんなにも家族形態・家族意識が変化する中で、身元保証ありきのサービス提供は難しくなってくると思われます。医療介護施設側、患者・利用者側どちらにもメリットのある柔軟なシステムづくり、新しい保証制度の構築が早急に必要になってくるのではないでしょうか。
◎主な参考資料
*1)民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-法務省民事局https://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf
*2)「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」医政医発0427号平成30年4月27日,https://www.mhlw.go.jp/content/000516183.pdf
*3)セゾンのくらし大研究https://life.saisoncard.co.jp/family/inheritance/post/y28/,2023.3.6
*4)「身元保証人に関する実態調査のためのアンケート集計結果報告書」https://niben.jp/news/news_pdf/oshirase20171029-1.pdf
*5)身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインhttps://www.mhlw.go.jp/content/000516181.pdf,2023.3.6
*6)みんなの介護https://www.minnanokaigo.com/guide/how-to-choose/flow/surety/,2023.3.6
*7)遺産相続弁護士ガイドhttps://isansouzoku-guide.jp/seizenkeiyaku,2023.3.6
*8)ウチシルベ,介護コラム,介護ケアについて,介護におけるキーパーソンの役割 https://www.osumai-soudan.jp/column/column799.html,2023.3.6
*9)キクミミ,入院時の対応(身元保証人と入院保証金)もしもの時のための 予備知識 https://kikumimi.kkelan.co.jp/nyuin-hoshokin/,2023.3.6