【情報BOX】 看取りのプロセスで家族が果たす役割 No.1 キーパーソンとは?
◎キーパーソンとは
看護や介護における「キーパーソン」という言葉、医療介護関係者は普通に使っていますが、一般の人にはなじみがないものです。
入院や介護施設に入所する際、またケアプランを作成する際に「キーパーソンはどなたですか?」と聞かれ、「それって何をするの?」「誰がなるの?」とたくさんのはてなマークが頭に浮かぶのではないでしょうか?
簡単にいうと「患者・利用者側のケア責任者」として、意思決定や問題解決の要となる人で、主に家族や親族がその役割を担います。
◎キーパーソンは何をするのか
患者・利用者側のケア責任者と書きましたが、自ら看護介護をするという意味ではなく、円滑なケア体制をつくるコーディネーターの役割を果たします。
具体的には以下のような役割があります。
- 本人を精神的に支える
- 生活用品の準備(例えば、入院した際の着替えなどの準備)
- 家族の意見の調整
- 代託者として治療方針・ケア方針を決める
特に患者自身が意思決定できないような場合に、本人の意向をふまえて意見を伝える - 病院や施設、ケアマネジャーとの連絡窓口・緊急連絡先
・病状説明や今後の治療・ケア方針の説明を受け、ご家族や関係者の意向を取りまとめて、医療介護施設とのやり取りを行う
・急変時の連絡を受ける
※「キーパーソン」に「身元保証人」としての役割も求める医療介護施設もあります。実際には「キーパーソン」と「身元保証人」は同じ人がなるケースが多いです。その場合は「入院・利用料の支払い保証」をはじめ、入退院手続き、医療行為の同意や立ち合い、退院時や死亡時の身柄の引き受けなど、法的な責任も担うことになります。この「身元保証人」の役割については【情報BOX】「看取りのプロセスで家族が果たす役割 No.2入院・入所時の身元保証人は誰にお願いしますか?」で解説していますのであわせてお読みください。
◎キーパーソンは誰がなるのか
- 頻繁に訪問し、状況を把握しやすい人
病院、施設をよく訪問する人(できる人)は、状況を把握しやすく、ケアスタッフとも信頼関係を築きやすいと考えられます。 - 本人が信頼を寄せる人
- 本人や家族との関係が良く、意見を調整しやすい人
以前は、妻や娘、息子の妻がキーパーソンになることが多かったようですが、最近では男性(夫、息子)、友人も増えてきているようです。
◎誰が「キーパーソン」を決めるのか
患者・利用者本人が「キーパーソン」になってもらう人を決めます。ただし、本人が認知症などで決められない状況の時には、家族が話し合って決めます。
「ケアに責任をもつ」のは荷が重く、なりたくないと思う家族もいて、もめる原因になりやすいものです。高齢になってきたら、看取りの希望を誰に託したいかを考え、お願いして了解を得ておくことをお勧めします。
◎キーパーソンは変更できるのか
もちろん変更は可能です。キーパーソンが病気になった、仕事が多忙になったなどさまざまな事情で変更したいという場合もあるでしょう。その際には、いつから誰に代わるのかを必ず病院・施設に伝えましょう。
◎身寄りがないなどキーパーソンを選ぶことが難しい場合
最近では一人暮らしの高齢者が増え、身寄りがない、親族が高齢者ばかりでキーパーソンの役割を担えない、本人が希望しない、親族がキーパーソンになることを拒否するなどのケースも増えています。
そのような時には、信頼関係のあるケアマネジャーやケアスタッフがキーパーソンになることもあります。そもそもキーパーソンは「家族に限らず、本人が信頼を寄せる人」というとらえ方もあります。
※親族以外のキーパーソンに「身元保証人」としての役割も求める場合には契約(後見契約や生前契約など)が必要です。時間も労力もかかることですので、お金のこと(必要経費やお願いする人への報酬など)や、お願いする内容についてしっかり明文化しておくようにしましょう。
(参考)
「家族と契約 No.1 判断能力が衰えたときに守ってくれる後見制度」
「家族と契約 No.2 家族も後見人になれる?」
「家族と契約 No.3 死後のことを託す―遺言・死後事務委任契約・死因贈与契約」
「家族と契約 No.4 まとめ&今注目の家族信託」
「看取りのプロセスで家族が果たす役割 No.2入院・入所時の身元保証人は誰にお願いしますか?」
◎キーパーソンの苦労
本人の意向、状況をよくわかった配偶者や子どもがキーパーソンになることができればベストなのですが、現実にはそうではないケースも多いのです。
あまり交流のない別居の子どもがキーパーソンになった場合は、親の意向がわからなかったり、頻繁に病院・施設を訪問できないため状況把握が難しくなったりするでしょう。多忙な熟年ビジネスパーソンの場合、親自身の希望や意思より働きざかりの自分たちの世代の都合を優先させる例も少なくありません。
親一人子一人などで、キーパーソン以外に家族がいない場合は別として、家族間の意見の調整には苦労します。患者・利用者への思いも、ケア方針に対する考え方も違う家族全員に納得してもらうのは難しいことですから……。
◎まとめ
このように、キーパーソンの役割は文字通りケアの鍵をにぎる重要な人ですので、本人から信頼されている人がなるのが自然です。信頼関係の基本はお互いをよく「知っている」ことです。
しかし、離れて暮らし、日ごろの交流がないとお互いのことがよくわからなくなります。だからこそ「知る努力」「知らせる努力」が必要なのです。
遠方でなかなか会えなくても、電話などでよく話をしましょう。話す中で、希望や今の状況(健康状態など)は自然に推し量ることもできます。大事なのは「繰り返し」伝え続ける、聞き続けることです。
そして、これから人生の最終段階を迎える皆様には、
- 誰がキーパーソンになるのかでもめないように、キーパーソンを事前に決め、お願いしておく
- キーパーソンになった人が代託者として、迷ったり、後々「あれでよかったのか?」と罪悪感をもったりしないように明確に意思表明し、明文化しておく
- キーパーソンになった人が意見調整で困らないように、家族・親族に自分の希望を伝え、納得してもらっておく
これらのことをぜひ実践してほしいと思います。
尊厳死協会の会員を看取ったご家族からは「本人のリビング・ウイルの意思が明確だったので迷わずにすみました」「リビング・ウイルを提示することで医師や親族に理解してもらえました」などのご意見が多数寄せられています。
人生の最終段階における意思を明文化している人はごくわずかです。明文化することで、信頼のおけるキーパーソンの迷いを減らせます。家族の都合が優先されることもなくなり、自らが望む看取りを実現できます。ぜひ、この機会に行動を起こしてみませんか。
◎主な参考資料
1)ウチシルベ,介護コラム,介護ケアについて,介護におけるキーパーソンの役割 https://www.osumai-soudan.jp/column/column799.html,2023.3.6
2)神戸協同病院緩和ケア病棟スタッフBlog, “キーパーソン”について,2020.10.23 http://kobekyodo-hp.jp/kanwablog/archives/1898, 2023.3.6
3)訪問看護NAVI https://homonkango.net/glossary/ka_row/14034/,2023.3.6
4)安心介護,介護のはじめ方https://i.ansinkaigo.jp/knowledge/rore-of-keyperson,2023.3.6
5)認知症フォーラム,家族で介護するときのポイントとはhttps://www.ninchisho-forum.com/knowledge/kaigo/009.html,2023.3.6
6) 赤星成子他:看護実践における看護識者のキーパーソンに対する認識-医療機関における実態調査から-南九州看護研究誌Vol.3 No,2005