(公財)日本尊厳死協会顧問倉本聰氏のメッセージについて

4月16日(金)に当協会の顧問である倉本聰氏から電話があり、協会に入会しているご友人が苦痛の中で悲惨な亡くなり方をしたので、そのことを書きたい、という連絡を受けました。協会のリビング・ウイルが全く役に立たなかった、という話です。協会が毎年行うご遺族アンケートでも、毎回1割弱の方が「役に立たなかった」と答えています。その内容はさまざまですが、協会はこの事実を正面から受け止め、倉本氏の許可を得てここに直筆原稿を公開し、以下、協会としてのメッセージを述べます。

役に立たなかった理由として、倉本氏は「僕のもっともひっかかるのは人命尊重という古来の四文字を未だに金科玉条とし、苦痛からの解放というもう一つの大きな使命であるはずの医学の本分というものを、医が忘れてはいないかということである」と記しています。倉本氏が指摘する「医学という一つの学問の中での思考のあやまり、いわば哲学の欠如」によるという事実は、私たちも看過できません。

協会は創立以来45年間、国民が自分の最期を考えてその希望を表明する「リビング・ウイル-終末期における事前指示書」を発行し、同時に協会の理念を理解するリビング・ウイル受容医師の登録活動を続けてきました。しかしながら、いまだ皆が安心できる状況には必ずしも至っておらず、協会の理念に賛同し、かつ医療的な技術も併せ持つ医師に出会うことは「運次第」ということが少なからずあるのが現状です。

リビング・ウイルを所持し、それを医療者に伝えるという可能な限りの準備をしていても、それを受け取る側がはるか彼方、別の世界にいるのでは、いつまでたっても患者は安心して最期を迎えることができません。「患者の権利法」も「尊厳死法」もない今の日本で、制度としての人生会議(ACP)を推し進めるには、国民の意識を高めるのと同時に、医療者側の意識と質も同時に高めていかなければ意味がありません。

もはや死を過度にタブー視することなく、自分の最期の希望について話せる文化が根付きつつあります。協会は全ての国民が安心して安らかな最期を迎えることのできる社会の実現を目指し、国会議員、医療界、医学教育界に向けて、より一層、声を上げ、活動を進めていく所存です。

2021年4月25日

2021年4月23日
公益財団法人 日本尊厳死協会
理事長 岩尾總一郎

協会顧問 倉本聰からの緊急メッセージ