コロナ禍におけるリビング・ウイルの重要性について
昨年4月に日本尊厳死協会は「新型コロナウイルス感染症重症化に伴う措置について」と題する、協会の考え方を発表しました。パンデミックから1年が経過しましたが、第3波の発生による感染拡大や変異型の発生報告など、まだまだ収まる気配はありません。期待されるワクチンが国民に広く接種されるのはまだ先のことです。
「協会の考え方」で述べた通り、新型コロナウイルス感染症は不治の病ではなく、適切な処置により回復する病気です。終末期において延命措置を拒否することとは根本的に異なる問題です。その点を十分踏まえ、まずは私たちができる感染予防措置を取っていただきたいと思います。
1月末時点では世界中で累計1億200万人以上が感染、うち5700万人が回復し、202万人が亡くなっています。国内に目を移すと、NHKの集計では感染者累計が389,975人、うち死亡者は5,753人で死亡率は約1.5パーセントです。
このグラフは自治体が公表した情報に基づき、国立社会保障人口問題研究所がまとめた、日本における2021年2月1日時点での年齢階級別性別の死亡者数です(性別・年代が非公表、もしくは「高齢者」とされた方は合計1,203名で、上の図には含まれていません)。死亡者の性比は1.52で男性が女性を上回ります。グラフを見てお分かりのように死亡者の8割以上が70歳以上の高齢者です。重症化するのは高齢者であり、感染高齢者の2割の方がなくなっています。(注1)
http://www.ipss.go.jp/projects/j/choju/covid19/index.asp
感染を防ぐため、多くの医療機関、介護福祉施設では面会が著しく制限されています。入院、入所している高齢者にとって、新型コロナウイルスに感染し不幸にして死亡するようなことになれば、本人にとっては最期の時間を隔離されたまま過ごし、最愛の人たちとのお別れもできません。遺族らは適切な感染対策をした上であれば、病室で故人とお別れの時間を持つことができますが、施設への出入りを禁止している医療機関もあります。(注2)
コロナ禍ではマスクをする、距離をあける、手を洗うなど、十分に注意していても感染することがあります。誰もが明日感染し、肺炎になり、1週間後には重症化して意思を伝えられなくなり、その1週間後には亡くなる、すべてが1か月も経たないうちに終わってしまう、ということが実際に起こっています。短期間に急速に病状が悪化する新型コロナウイルス感染症に対して、普段から自らの死を想定する手段として、「書面に自分の意思を残しておく」リビング・ウイルを、今一度確認し、家族や医療関係者にお伝えください。(注3)
(注1)東京都に限ると、2020年10月以降はウイルス陽性者のうち70歳以上の方は12.8%です。死者720人のうち70歳以上の方は89%、致死率6.2%です。
(注2)今、ご遺体を納体袋に収容後は火葬前に対面することが可能です。しかし直接手を触れたり抱擁することは今もできません。(新型コロナウイルス感染症診療の手引き第4.1版。厚生労働省。令和2年12月)
(注3)新型コロナウイルスに感染するとき、同居家族全員コロナウイルス感染者や濃厚接触者になって入院する可能性があり、家族が治療の方針決定の場に参加できるとは限りません。そういう事態に備える意味でも、リビング・ウイルという書面をご準備ください。