ALS患者に対する嘱託殺人事件判決に関しての日本尊厳死協会の見解
2024年3月8日
公益財団法人 日本尊厳死協会
ALS患者に対する嘱託殺人事件判決に関しての日本尊厳死協会の見解
2020年7月にALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う当時51歳の女性から依頼され、薬物を投与し殺害したとして嘱託殺人の罪に問われた医師に対する判決が3月5日に京都地裁から出されたことを受け、日本尊厳死協会は以下の見解を表明します。
はじめに、日本尊厳死協会が定義する尊厳死とは、本人の自発的な希望であるリビング・ウイル(人生の最終段階における事前指示書)に基づいて延命措置を差し控え、充分な緩和ケアを施されたうえで自然に迎える死をいいます。今回の事件で問題になったような他殺行為(いわゆる「安楽死」)とは異なります。
裁判過程で医師が行った措置や気持ちの詳細が語られ、「患者を生き地獄から救いたい」という気持ちから致死行為に至ったと報道されていますが、それが事実であるとしても、医師と患者の間の信頼関係を構築する以前の早急な行為であったことは否めません。病気の治癒回復が望めず、将来に対して絶望的な気持ちしか持てない状況の患者さんの「死にたい」という言葉の裏には癒されない痛みを抱えている場合が多く、それをそのまま「自殺ほう助」や「安楽死」に結びつけるのはあまりにも短絡的と言わざるを得ません。このような行為は、患者の希望に基づいた終末期ケアを重視する尊厳死とは全く異なるものです。
日本尊厳死協会は安楽死を支持していませんが、「死の迎え方を選ぶ権利」に関しては、広く多様な価値観を俎上に載せ、議論を深めるべきと考えます。今回の事件は、いま生きている私たちに必ず訪れる死について深く考え、自己決定に基づいた終末期医療のあり方や社会のあり方という諸問題と真剣に向き合うべきだと警鐘を鳴らすものであると受け止めています。
最後になりましたが、ALSを患いながら懸命に考え、生き、亡くなられた女性のご冥福をお祈り申し上げます。