第10回 日本リビングウイル研究会 レジリエンス -パンデミックから立ち直る力-【ビデオ報告】

◆第10回 日本リビングウイル研究会 テーマと概要の紹介
いまだ収束の気配を見せないコロナ禍や全国で起きる大災害のなか、私たちは命の危機における意思決定のあり方を今まで以上に問われることになりました。同時に、起きてしまった出来事をどのように受け入れ、どうすれば心のしなやかさを育成できるのかを考えるべき時に直面しています。今回の研究会は、自分にとって良くない予期しない出来事へのレジリエンス(絶望から生きなおす力)に焦点を絞り議論していきたい、また、個人の努力で獲得できるレジリエンスのみならず、社会制度としてのレジリエンスも視野に入れて議論したいと思います。 
コーディネーター 満岡聰(満岡内科クリニック院長 日本尊厳死協会理事)

◆理事長ご挨拶
この2年間、コロナ禍において感染者への謂われなき差別や感染後の後遺症、接触を遮断されたなかでのお別れ、などさまざまな苦難がありました。絶望とも感じられる状況におかれても「自分たちはもう一度生き直すのだ」という強いメッセージを込めて、今回のテーマを選びました。多方面からの知見がアドバイスになることを願います。 
公益財団法人日本尊厳死協会 代表理事 岩尾總一郎

オランダ発 レジリエンスとオランダ発ポジティヴヘルス
まず「心身の健康」と言う意味をとらえ直すことが必要です。WHOが定義する「身体的、精神的、社会的に完全に良好である」状態ではなく、「問題に直面した時に適応し、本人主導で管理する能力」を健康と呼ぼう、という動きがオランダで始まりました。これがポジティヴヘルスです。この新しい「健康」ならば、一度挫けてしまっても戻っていける、しなやかに立ち直っていける(レジリエンス)という良い流れにつながるのです。 
シャボット・あかね(安楽死問題 研究者)

◆価値観の多様性とむきあう臨床
中世から現代にかけて、医療が疾病を「根絶し完治させる」スタイルから「症状をやわらげ支える」スタイルに変化してきたなかで、本人の思いや希望の尊重が一層求められると同時に、患者自身が自らを見つめ直し、自分の生き方を深め、変容していくことが求められています。人は人生の中でさまざまなものを獲得し、失います。人生は喪失のプロセスともいえます。私たちはこうした喪失とどう折り合い、挫折から復元(レジリエンス)するのか。 
松田純(静岡大学名誉教授 哲学者)

◆日本尊厳死協会の医療相談から
コロナ禍で会員の皆さんが何に苦しみ、何を求めているのか、立ち直るきっかけは何だったのか、今までの日常では考えられなかったような状況がありありと映し出されるような相談内容から2つの事例を挙げます。協会の医療相談は、相談者と医療相談員が会話を重ねながら必要な情報を伝えることで、問題点が整理され、次のステップへと進んでいく「場」であると考えています。 
平林池保子(看護師 医療相談員)

◆レジリエンスを高めるマインドフルネスとGRACE
人をケアする場合、ケアを行うその人自身のケアができていて初めて他人のケアをすることができます。同時に、レジリエンスを高めるためにも自分自身のケアをすることは非常に大切です。ではどうすればできるのか、実践的な方法としてマインドフルネスを紹介します。自分にとって良くない出来事に遭遇すると、「心は今にない」状態になり、過去にくよくよして落ち込み、また未来に対して過剰に不安になる、という過去と未来への繰り返しの中に彷徨うことになります。それを止め、今を生きることに集中することが大切です。心を「今」に戻すための呼吸法をお伝えします。 
髙宮有介(昭和大学医学部教授 日本死の臨床研究会世話人代表)

◆ディスカッション(1)
それぞれの人生のなかで大切なものを見つけていく過程で、それぞれのレジリエンスを獲得していくことになります。ひとは自らのライフストーリーの筆者であり、答えはその人の中にしかないものです。自分の気持ちを落ち着かせ、誰かに傾聴してもらい、自分の物語を書き換えていくことによって、自分の人生の意味を構成していきます。

◆ディスカッション(2)
自分のなかであるいは社会の中で優勢だった物語から、何かをきっかけに新しい発見をして、新しい物語を書いていきます。全人的に立ち直るためには、個人の努力だけではどうしようもない場合があり、社会自体にレジリエンスが必要です。それには「私たちが作ったものならば、私たちが変えることができる」と信じて行動することも必要です。市民一人一人の責任であり、「おまかせします」ではレジリエンスは成りません。社会的レジリエンスを考えるに当たり、自律と依存についても考えたいと思います。人間社会は自律と依存の両方があって繁栄した経緯から、自律を過剰に尊び依存を嫌悪するのではなく、支えられる柔軟性も認め合いたい。