【私の本棚】-遙かなる星

今回は「遙かなる星」ヤン・デ・ハートック著 角川文庫 昭和49年 をピックアップします。

以前より探し求めていたのですが、既に絶版となっており入手困難ゆえ国会図書館に行かねば読むこと叶わず、と半ば諦めかけていましたが、偶然の出会いでお借りすることができました、感謝です。

第二次大戦直後、強制収容所から奇跡的に解放されたユダヤ人の少女アンナは未だ見ぬ約束の地パレスチナへ行き、祖国のために働きたいと願っています。しかし人体実験でその体は極度に衰弱、その上肺の病にも冒されていたのです。 当時国際情勢が不安定な中でパレスチナへ渡るには密入国しか手段はなく、経緯から関わることになったアムステルダム警察のユングマン警部は数々の困難や障害に耐え、オランダから英・仏を経て少女を祖国へ送り届けようとします。途中彼女の肉体的な極限状況から医師は治療のためにアメリカ行を勧め、彼女も一旦は受け入れます、しかし…。

良い本の条件とは、と問われると、私は‘出会い’も大切な要素ではないかと思います。読み手が人生のどの時点でその本を手に取るかは大変重要なファクターのひとつではないでしょうか。自分が生きている時代の生々しい現象や匂いを嗅ぎたい/触れたい気持ちは誰しも持っているものです。さりながらこの作品の舞台は戦後間もなくの頃、この本には自分がもっと若い頃に出会いたかったと云う印象は否めません、口惜しいと申しますか。

それはともかくこの本には、キリスト教徒にとっての対ユダヤ人観、或いは自国が戦場となったヨーロッパに於ける第二次大戦そのものへの反省、罪悪感、原罪、憐憫、ある種の後ろめたさと云った我々日本人には到底理解しがたい諸々の複雑な背景や感情が丁寧に練り込まれています。
登場人物それぞれがそのような重荷を背負っていることが少女アンナの旅に微妙な影響を与えるのです。それでも彼女はイスラエルに帰ろうとします、何の為でしょう。

「クオ ヴァディス/Quo Vadis」= あなたは何処に行くのか? ラテン語のこの言葉を思い起こします。一気読みをお奨めしますが、宗教とは何か、生とは何か、死ぬこととは何か、それ以上に人間にとって最も大切なモノは何か、多々考えるところ有りですが、そのあたりにつきましては知見のない自分としては賢明な読者のご教示をお願いしたいところでもあります。

文責・城野丈太郎