第1回LW研究会【要旨】
松尾幸郎氏の講演要旨
2001年の10月に約20年間過ごした米国から日本に帰国し、生まれ故郷の富山に移り住みました。妻の巻子が交通事故に遭ったのは07年7月です。意識が戻ったのは2週間後でした。手足だけでなく首も動かない全身麻痺状態です。人工呼吸器に横隔膜ペースメーカーがなければ、自分で生をつなぐこともできません。泣くときも、涙は目から流れません。口から洪水のように流れてくるのです。
そういう巻子も、目をパチパチすることだけはできます。ただ、それだけでは、ボタンを押さなければならない会話補助器は役に立ちません。あるとき、目を開閉したときに会話補助器のボタンを私が代わって押すことを思いつき、試してみました。初めて巻子がつづった言葉が「まみいを ころして ください」でした。事故から2年9ヵ月が過ぎていました。その後も何度も「死にたい」を繰り返しています。綴った言葉を「巻子の言霊」として記録しています。 私がリビングウイルを知ったのはニューヨークに住んで10年くらい経ったころです。遺言書をつくろうと弁護士事務所へ行きました。リビングウイルも作りなさいとアドバイスを受けました。医療費の高いアメリカでは、延命措置をすれば莫大な請求がきます。妻も子どもも路頭に迷うことになります。だから米国では41%の市民がリビングウイルを持っています。リビングウイルとセットになっているのが「Health Care Proxy」。いわば「代理委任書」です。自分に判断ができなくなったら、妻に、それもダメな場合は娘にという具合に、判断を委ねるのです。このふたつがセットになって始めて効率的に機能する文書になるのです。なぜ日本では、これを参考にしないのでしょうか。
最近気がついたことです。「尊厳死」という言葉は万国共通ですが、日本のそれは自然死に近いものですが、英語では積極的安楽死も含みます。
いま日本で準備されている尊厳死に関る法案は、医者の免責だけを求める法案だと批判があると聞きました。米国のニューメキシコ州の法律では、刑法、民法、行政上の免責を認めていますが、同時に医師が損害賠償の責任を負うことにもなっています。つまり、患者の自己決定権に反すれば、損害賠償の対象となるわけです。あくまで個人の自己決定権が最優先されるのです。これが日本の法案には含まれていないのは、なぜなのでしょうか。でないと患者の自己決定権は守られません。
米国では、さらに次の一手が打たれています。Physician’s Order for life-sustaining Treatment( POLST) 。直訳すると「生命維持装置に関する医師の命令書」とでも言うのでしょうか。医療従事者が末期患者の生命維持装置の扱いについて、患者の意思を確認してつくる文書です。患者の意思が明らかなので、他の医師にもわかりやすいのです。
ご清聴、ありがとうございました。