【第一回】尊厳死と安楽死 長尾和宏
アメリカ オレゴン州のブリタニー・メイナードさんが自分の意思で死を選択した記事は日本でも大きな話題となりました。
皆様も新聞やテレビで目にされたのではないでしょうか。
各社報道の中で、彼女の亡くなり方の表現が「安楽死」と「尊厳死」、見解が2つに割れていたのに気づかれましたか?
今回、驚いたのは、多くの若者がこの報道に反応したことです。
これまで、死への関心は高齢者が中心でしたが、若者が反応した。
ネット上では、「なぜ日本では安楽死できないんだ?」という書き込みが相次ぎました。
尊厳死さえも法的担保されていないのに、一足飛びに「安楽死願望」とは・・・・
正しくは、メイナードさんの行為は日本では「安楽死」です。「尊厳死」とは違います。
では何故「尊厳死」と誤って報道されたのでしょうか?
日本では、「安楽死」とは苦痛から患者を解放するために意図的・積極的に死を招く医療的措置を講ずることを指します。
一方、日本尊厳死協会が定義する「尊厳死」は、「自分が不治かつ末期の病態になったとき、自分の意思により、自分にとっての無意味な延命措置を中止し、人間としての尊厳を保ちながら死を迎えること」です。つまり尊厳死は自然死や平穏死と同義で、積極的な方法で死期を早める安楽死とは根本的に異なります。
日本ではこのように、明確な定義がなされている「尊厳死」ですが、欧米では「安楽死」も「医師のほう助による自殺」も「Death with dignity」と呼ばれています。
「尊厳死」と「安楽死」の区別がないのです。
なぜならば欧米には日本でいうところの尊厳死や平穏死、自然死、という言葉はありません。
その理由は、「尊厳死」「自然死」「平穏死」は当たり前のことだからです。
欧米で当たり前のことが、日本では残念ながら当たり前ではないのです。
欧米で「尊厳死」と「安楽死」が同義で扱われている事が今回の誤った報道の一番の原因ですが、果たしてそれだけが原因でしょうか?
日本では「終活」が流行り、最期の大事な日々をどう生きるかをより真剣に考える風潮が出来てきました。しかし大手メデイアでさえ、まだ「安楽死」と「尊厳死」の違いに気づいていないのが現状でもあります。日本で「尊厳死」の興味・関心がもっと高ければ今回のような誤った報道にならなかったかもしれません。
さらに自分の希望を文書に残す「リビング・ウイル」の大切さにもなかなか気づいてもらえないのが悲しいですが、日本の現実です。
また週刊文春が読者1100人に行ったアンケート調査によると、なんと7割の人が安楽死に賛成し、9割の人が尊厳死に賛成しているという現実も明らかになりました。
私は安楽死には明確に反対ですが、尊厳死には賛成です。
ですから、まずリビング・ウイルの法的担保を国民的議論として始めるべきだと思います。
メイナードさんの死から何を学び、それをどう生かしていくのか?
あなたは何を感じたでしょうか?
メイナードさんをきっかけに、死をタブー視せず前向きな議論が進むことを期待します。
長尾和宏 プロフィール:
日本尊厳死協会 副理事長
東京医科大学卒業後、大阪大学病院内科勤務を経て尼崎市に在宅医療の長尾クリニックを開業。東京医科大学客員教授。阪神大震災、東日本大震災後真っ先に現地に駆けつける「震災ドクター」。ベストセラー本「平穏死10の条件」「ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケルるで」の出版をはじめ年間約70回の全国講演をして、「医療とは、介護とは、人間とは」をトピックに、リビング・ウイル普及活動をしている。