LW時代(6)
同じ東アジア文化圏なのに
一般財団法人日本尊厳死協会
理事 白井 正夫
日本ではなぜか、ほとんどニュースにならなかったが、台湾、韓国で最近、相次ぎ〝尊厳死法〟が制定された。「2025年問題」を目前に終末期医療に対する関心が高いはずのわが国のマスコミが、同じ東アジア文化圏の動きを伝えないとはこれいかに、である。
台湾の「患者自主権法」は昨年12月18日、立法院で可決、成立した。台湾では2000年に、政府が定めた事前指示書があれば、末期患者に延命措置の中止も認める「ホスピス緩和医療法」ができている。事前指示書の登録者は約34万人(人口の1・4%)で、この16年間の実績を踏まえての新法だ。
新法は延命措置の差し控え(不開始)や中止ができる対象を広げたのが特徴。「末期患者」だけでなく「持続的植物状態」「回復不能なこん睡状態」や「極めて重度な認知症」「その他」の5種類を挙げた。
台湾、韓国で相次ぎ〝尊厳死法〟制定
アジア初の患者を主体とした法律(台湾各紙)とされ、事前意思決定、医療判断委任代理人の制度整備を含め、患者本人の意思を十分に尊重した医療を法的に保障する法律である。新法は1月に公布され、施行は周知や準備期間を考慮して3年後の2019年1月。対象5種類のどの段階に至れば事前意思決定書を実行できるのか、は関連医学会の協力でガイドラインをつくり、それを基に施行規則を作成する。
一方、韓国で制定された(1月8日、国会で成立)のは「ホスピス・緩和医療及び臨終過程にある患者の延命医療決定に関する法律」。緩和医療の保障と延命医療中止という2つの目的をそのまま表した法律名で少し長いが、通称「尊厳死法」と呼ばれる。延命医療中止に係る条文の施行は2018年1月となっている。
韓国尊厳死法は、中止できる「延命医療」を「臨終過程にある患者に行う心肺蘇生術、血液透析、抗がん剤投与、人工呼吸器装着」の4つの医療行為と限定している。それ以外の緩和医療、栄養分・水の補給、酸素の単純供給は中止してはならない、と条文に定めた。
韓国では、持続的植物状態患者の延命措置をめぐり大法院(最高裁)が人工呼吸器除去を病院に命じる判決が出ている(2005年)。以来、終末期医療の法整備の動きが国会で盛んに議論された。しかし、決着がつかないまま国家生命倫理審議委員会(大統領諮問機関)が2013年、政府に自己決定権の保障を制度化するよう立法化を後押ししていた。
先の国会でも立法が危ぶまれたが、議員立法で提出された尊厳死、自然死、緩和医療、がん管理など7つの法案を統合、調整して1法案にまとめることに成功した。対応が難航した「患者の意思が確認できない」場合、患者家族全員の合意があれば中止も可能とした。
両国会は全会一致 意思尊重の法的保障
台湾、韓国ともそれぞれ意思表明書、医療決定書の扱いなどでさまざまな規定がある。内容も異なるが、両者に共通するのは「終末期医療で患者の意思尊重を法的に保障しよう」という認識である。その思いは国会の評決に端的に表れている。台湾立法院では「全会一致」、韓国国会では出席議員203人中、賛成202、棄権1だった。
さて、立法化の賛否はともかく、隣国の動きにわが国マスコミの関心が薄いのはどうしたことだろうか。情報を捜し回ったら、国立国会図書館の「海外立法情報」1月号に台湾、3月号に韓国の立法エッセンスが載っていた。同図書館のHPでアクセスできる。
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所用で鹿児島に行った。帰路は熊本に回り、熊本城を見学した。その城で最も心ひかれたのは、市街地から望める壮大な城郭の姿だった。その光景は市民にとってきっと「心のふるさと」に違いない。そう思いながら東京行き最終便に乗った。4月8日である。
その1週間後、強い地震に揺れる夜の熊本市街地を映す固定カメラの映像をテレビで見た。遠景の熊本城天守閣に白い煙のようなものがまとわりついている。崩落する屋根瓦が舞い上げる砂塵と気づいたのは何時間か後である。
活断層列島で不測の事態の発生は常にあり、耐え難い犠牲や心の痛手が強いられる。熊本地震の被災地の一日も早い復興を祈るばかりです。