【私の本棚】「長生き時代」を生きる

長寿大国にあっては何歳まで生きたら「長生き」とされるのだろうか。80歳代半ばなんてまだ青くさいらしい。

『「長生き時代」を生きる』(集英社、2014年7月刊、1200円+税)の帯には
「人生90年、100年の時代を生きるために」とある。

アンチエイジングで老化に逆らってみても
人は長生きしても、生きるほど病にかかり、認知症にもなる。それらを背負う「長生き時代」の生き方を、老年医学の小澤利男(元東京都老人医療センター院長)、作家で精神科医の加賀乙彦、親の介護体験を持つ作家の落合恵子の3人が語り合った対談本である。
対談は小澤が老年医学の知識をわかりやすく披露し、落合が介護者、患者の立場から問題を提起し、キリスト教を信仰する加賀が宗教、こころの側面を語る。三者三様の個性が組み合うなかで、3人の共通認識は「人間は老化する」。
85歳の小澤と加賀は東大医学部で1年違いの同窓生。小澤は前立腺がんを手術し、加賀は心房粗動で死にかけた話から、2人の対談はまず「長生き病が増えてきた」。小澤は、長生きすることによって増え、老化と密接な関係がある病気を「長生き病」と呼ぶ。3大長生き病は「脳こうそく、認知症、ロコモ」とか。
しかし、医学の進歩は長生き病の様相を変えつつある。昔は、いびきをかいてこん睡状態になる脳卒中が脳出血の3分の1はあったが、今はあまりみられない。高血圧の薬の進歩がすごいし、発症からの対応が早くなった。それでも人は老化するから病気がなくなるわけではないのに、人は逆らうことをやめない。
世は「アンチエイジング」ばやり。化粧品、サプリメントから人間ドックまで。生活習慣の改善で老化の進行を遅らせることは可能だが、世は商業主義に踊らされすぎ。小澤が「エイジングを日本では加齢と訳すけど、正確には老化。老化は必然で、アンチエイジングはそもそも無理」と諭せば、落合が「老化は当たり前でいい」。老いることは悪いことではない。そう言われて、安心にひたれる一書だ。

(M)